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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
78/84

78。早く言ってください!

 困惑で動けなくなってしまった私の顔を覗いて、黒狐は視線を合わせるように手を振っている。私は、ハッとなり黒狐と視線を合わせた。


「あ、明日? ですか?」


 明日なら、起きた時に教えて欲しかった。いやそもそも、 "数日で" ではなくて具体的に教えて欲しかった。ここの妖たちは、時間や日にちに対して無頓着なのかもしれない。時計自体も暖さんの家以外で見たこともなかった。そしてその時計すらも、暖さんが気にしている様子を見たことがなかった。


「ええ。そのために、今日はいろんなところから時音稲荷神社に妖が集まってくるのです。なので今日は、暖さまは忙しいのですよ」


 さあ! と促されて固まっていた私の背中を押して、和さんのお店に向かう。私は握りしめている手紙に視線を落として、考え事をした。


 

(妖って、これだけ話をしていても理解できないことがたくさんあるなぁ)


 人間の世界で生まれて育ち、なんの疑問もなかった。反対に妖界で生まれて育った彼らは、ここの感覚が当たり前なのだ。私もこの世界に染まり切ることができるのだろうか。

 まだまだ知らないことしかない。もっともっと知りたいと、たくさんの妖に触れて感じた。



 紺色の暖簾のれんが、視線の端に映る。和さんのお店に着いたのだ。風でゆらりと揺れる暖簾をくぐって中に入った。



「和さん、恋坡です……?」



 中に入ると、誰もおらず機織り機の音も聞こえてこない。お店は、留守なのかもしれないと思わせるほど静かだった。声をかけたものの、静かすぎて段々と声がデクレッシェンドになっていった。


 誰もいなさそうな雰囲気に、黒狐と目を合わせた。黒狐が大きな瞳を何度も瞬きをして、目を閉じて首をこてんと傾げた。



「ん〜? ここにいらっしゃらないなんて……」



 うんうんと、目を開いて考えて、首を反対に傾げて目を閉じて。黒狐は、かなり悩んでいるように見える。


(頭を悩ませているところ、申し訳ないけど。黒狐の考え方は、やっぱり可愛い!)



 そんな黒狐を見ていたら、後ろから声をかけられて肩が飛び上がった。慌てて振り返ると、そこにはクスクスと笑う和さんと花さんがいた。

 相変わらず、このふたりは仲がいいのだろう。常に一緒にいるような気がするほど、いつもふたりで現れる。



「ふふふ。黒狐、どうしたの?」



 首をこてんこてんと動かして悩む黒狐を見て、和さんは笑っている。黒狐が和さんの顔を見て、パアッと明るくさせる。ぴょんぴょんと跳ねて、ふたりの方にかけ寄っていく。



「いらっしゃらないから、心配したんですよっ」



 私は、手に握りしめていた手紙の存在を思い出した。達筆な文字で書かれた文字は、差出人である暖さんのものだろう。この文字も相変わらず、読めない文字で書かれていた。



「この手紙を渡しにきたのです」



 手紙を和さんに手渡した。和さんはカサっと手紙を開いて、手紙の中を確認をする。




「明日なのね、準備をしないとっ」



 和さんも知らなかったようで、この手紙にそう書かれていたようだ。花さんに私が持ってきた手紙を放り投げて、和さんは背中をグイグイと押して部屋の奥に連れてかれる。

 花さんは、笑い声をだしながら着いてきた。


「そういうことって、もう少し早く言うよね!」


(和さん、私もそう思います…… 当の本人ですら、さっき知ったので)



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