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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
76/84

76。先回りする!

 さあ、と優しく促されて黒狐に着替えを手伝ってもらったりした。こんな夜を知らないお祭りの日なのに、私だけが夜に先回りをしているようだ。みんなを昨日に置いてきぼりにして、さようならを告げ私は先に就寝する。



 枕元にもらったかんざしを置いて眠りにつく。迷信である、枕元に置くと夢で会えるというのを試してみようと思った。


(あぁ、こういう時に律さんがいれば見たい夢を見せてくれるのかな……)




 とぷんっと落ちていくのは、夢か考えの渦なのか。水槽を泳ぐ熱帯魚のようにひらひらと、私は綺麗な水の中を泳ぐ。平泳ぎのように腕を伸ばして水をかいた。

 


 透明度が高くて澄んだ青色が、赤色の花びらが目の前を通過していく。水の中なのに全く苦しくなくて、息継ぎなんてしなくともどこまでも泳げていた。それが、この赤の花びらによって急に苦しくなる。外に放り出されてエラ呼吸ができない魚のように、苦しくてもがいた。


 徐々に赤い花びらは増えていき、液体になって青色を赤色に塗り替えていく。


 息苦しさを解放して欲しくて、手を伸ばして助けを求める。グッと引っ張られて、水面から顔をだす。私が水面から出るときに飛んだ赤黒い液体が、周りに思いっきり飛び散る。私を引き上げてくれたのは、寂しくて夢でもいいから会いたいと願った暖さんだった。


 赤黒い水は、暖さんの顔まで汚してしまっている。水から上がって私の顔を水が流れて顎を伝ってポタリと落ちていく。首に張り付く私の髪を撫でていく。上半身を赤黒くなった水から上がったまま、岸でしゃがみ込んでいる暖さんを見上げている。ひとしきり、私の髪に触れて水分をとってくれる。


 暖さんは、腕を汚れることを全く気に留めずに水の中に手を入れて私の腰に手を回して水から引き上げる。体が軽く浮かび上がって暖さんのそばに下ろされる。足の裏がざらつく地面を肌で感じる。


 頬を親指で赤い液体を拭われて、頬を撫でる指先はするりと首を撫でる。ぴくりと跳ねる私を、ぎゅっと抱きしめる。顎を掬い取られて、血色の良い唇が近づいてくる。


 ゆっくり瞳を閉じて、それを受け入れようと少し顎をあげた。

 しかし一向に何も訪れないので、薄く目を開けた。



 目の前に広がるのは、薄い茶色で梁がしっかりある暖さんの家だった。ふわふわの布団から体を起こそうとした。私の隣で、私の手を握って眠る暖さんがいた。なんだか、その手を握られているのが夢のなかで助けてくれた暖さんを思い出す。


(今日の夢は、きっとあの桜に近づいたからだ。あの血の水槽は、何が伝えたかったのかわからないなぁ)


 暖さんは身じろぎをして、私の手を離して反対を向いてしまった。少し寂しさを覚えつつも、起きてすぐに暖さんの顔を見れて自分の手を握っていて嬉しさが込み上げてくる。


 グッと伸びをして体を起こした。窓からは、朝日が差し込んでいる。

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