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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
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74。桜の木の影響!

「ここは御霊の加護の持ち主にとって、影響を受けやすい場所だから。先に来ておいた方がいいと思って」


 たしかに、私もなにかを感じ取って動けないでいた。足に釘が刺さったような足の動かなさは、今まで一度も体験したことがない。



 先に連れてきてもらえたおかげで、心の準備もできそうだ。


 季節にそぐわない桜の木。私も死後に、眠ることになる桜の木。

 なんとも不思議な感覚だ。



 冷たく感じる空気感。呼吸をして肺に入ってはしまえば、全身を駆け巡り凍えてしまいそうになる。ここへ来た時の感覚を思い出すと身震いがする。


 でも、私一人ではない。ここにいる暖さんが、もし冷えてしまっても温めてくれるのだろうと思えてくる。


 幹のそばに来ると、空は真っ赤の桜の花で埋め尽くされる。月光の白い光は、血で染まる花びらを透かして木の下にも光を届ける。


 私は、その光に吸い寄せられるように手を頭上に伸ばす。手のひらを照らす月光は、銀色に輝いている。



  透ける桜の花びらから、血が滴り落ちてきそうだ。


「恋坡、そろそろ行こうか」


 私のことを抱き抱え、先ほど通ってきた暗い木々の道なき道を歩いて神社の建物の方へ戻っていく。



 暖さんの腕の中にすっぽりと収まり、心地よい揺れと落ち着く心臓の音。先ほどまでのおどろおどろしい雰囲気を忘れてしまいそうな、暖かな温もりを感じる。


 

 見上げた暖さんの表情は、優しさに満ちている。ゆっくりと目を閉じて、先ほどの光景を思い返す。


(あの、冷え冷えとしたひりつく感覚はなんだったんだろう? やはり、御霊の加護の影響?)


 ふぅっと肺に溜まった空気を大きく吐き切り、閉じた瞳を開ける。


 神社の外からは、いまだにお祭りのはしゃぐ妖たちの声が轟いている。きっと、以前の野狐との宴のように朝まで続くのだろう。

 

「今日は、もう休んだ方がいい。黒狐たちをこちらに呼ぶ」


 暖さんは、そのまま少し離れた暖さんの家に私を運ぶ。家の扉を私を抱いたまま器用に開けて、家の中に入る。居間にふわりと下ろされて、暖さんは私から離れる。部屋の中は暗くて、独りになりそうな感覚になり自分の胸に手を当てる。


 ゆらめく暖さんの狐火で部屋が明るくなる。明るく照らされるその光は、人が想像する狐火よりも温かみを感じる。


「まだ俺は、やることがあるから戻らなくてはならない。すぐに、黒狐がくる」


 不安げな私の頭に優しく触れて、髪を結っているかんざしを抜いて机に置いた。かんざしで留めていてついた癖を、手櫛ですいて整えてくれる。すかれる指通りに、くすぐったさを覚える。



 おでこに軽く触れるだけのキスを落として、玄関から出ていってしまった。この妖界で独りきりになるのは数えるだけしかない。その中でも、なんだか今が一番寂しい。


 一度、妖たちの温かさを知ってしまった私は水を欲しがる砂漠のように求めすぎているのだろう。寂しさなんてものは、人間界においてきたつもりでいたのに。



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