表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
71/84

71。大役!

 わたがしの店主は、たまたま野狐から救った子供の親だったようだ。救ってくれた代わりにと、こころよく渡された。ふわふわと柔らかくて、舌に載せるとシュワっと消えていった。


 甘さを噛み締めるように、目を閉じた。外の楽しそうな声と、口いっぱいに広がる甘みは妖界のお祭りを五感で感じさせる。



 目を開けると、律さんと琳寧さんが手をひらひらさせてこちらにやってきた。提灯に火が灯った後の人混みは、歩くのも精一杯だったはずなのにふたりは悠々と歩いてくる。少しふたりの間には、歩きやすいような空間の空きがある。不思議に思いつつも、手を振り返した。


 「そろそろ、暖の大役がはじまるよ」


 律さんの振り返って見た先に、高く作られた盆踊りなどで見るやぐらが立っていた。神社の近くにあるが、明かりもなくて暗闇と同化しているように見える。



 「何が……」


 私の言葉を遮るように、そのやぐらに付けられている提灯に火が灯りやぐらに集結している提灯が赤くやぐらを灯す。艶のあるりんご飴のように、その提灯の灯りはキラキラと輝いて見える。


 周りの声は、すっと静かになりやぐらの音に妖たちが注目する。これが暖さんの大役なのだろう。


 (お祭りの主役って、花火とか盆踊りだよね?)


 やぐらに立てかけられた、ハシゴを暖さんらしき人物が登っているのが見える。その顔には、時音様が付けていたものと同じ狐面だ。やぐらの頂上の踊り場に背を伸ばして、立っている。その姿は、かなり着こまれていて束帯そくたいに近い服装をしている。長い髪は垂れ下がらないように後頭部でくくられている。


 なにか舞でも踊りそうな、雰囲気を醸し出している。両手をまっすぐに伸ばして、手を叩いて半円を描くようにして左手を下ろした。ふわりとした動きは、時音様をお呼びするときの舞を思い出させる。


 暖さんの動きに合わせ、楽器部隊が演奏を開始した。笛に太鼓鈴の音色、混ざり合って綺麗な音楽になっていく。


 少ししゃがみ込んで、何かを手に取っているのが見えた。やぐらから何かが撒かれる。白いリボンに鈴が取り付けられているようだ。降ってくる鈴が擦れて華やかな音を響かせている。


 白のリボンが背景となっている暗闇に浮かんで見える。鈴の音色が、暗い闇を追い払っていくように明るい音を鳴らし続けている。

 私の手元にも、ふわりと落ちてきた。重力的なことを考えると、こんなにもゆっくりとは落ちてこないはずだ。これもここ妖界だからなのかふわふわと空中を漂い、鈴が意志を持っているかのように手元にたどり着く。


 手の中の鈴が、チリンッと綺麗な澄んだ音をさせる。周りからも同じような音を立てて手元の鈴を見ている。私の手の中の鈴は、小さめで瞳よりも小さな大きさだ。


 これがこのお祭りのメインイベントのようだ。鈴を手にした妖たちは、やぐらから離れていく。パッと上を見上げると、暖さんもやぐらから降りていて姿が見えない。


 周りをキョロキョロと見渡した。私の後ろから和さんが、私にくれた帯飾りの鈴に今降ってきた鈴をつけてくれた。帯飾りの鈴が二つになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ