7。御霊の加護?
応接間と呼ばれた部屋には畳が一面に敷かれ、中央に黒のローテーブルがひとつ置いてある。
奥に掛け軸がかかっており、柳の木に鳥が止まっているよくある絵だった。
暖さんは、奥側へ周り胡座をかいて座る。
「御霊の加護をお前は持っているんだな?」
(その前に自己紹介しましょう?
周りの話を聞くからに、お名前は暖さんで間違いないでしょうけども!)
「えっと……その。
そもそもの話なんですが、御霊? というのは、なんでしょうか?」
「は?」
暖さんは、ものすごい目を見開いてこちらを見てくる。
(なぜお前知らないの? みたいな、さぞ知ってて当たり前ですって顔やめてもらえます?
普通に生きて来た人間が知りませんよ)
黒狐さんが座布団を暖さんの前に置いてくれたので、そこに座った。
「……」
「ハァ。御霊の加護をもつ精気の強い人間を嫁にしてこの街の安定を図る」
(ため息つきたいのは、こちらです!)
「嫁にするとなぜ、安定? するのでしょう?」
暖さんは、袖に腕を突っ込みゴソゴソと何かを取り出した。
取り出したそれを机にコトッと置いて私に見せてくれた。
上が球体で下の土台に時計の数字が刻まれている。球体の中は、白い狐と黒い狐。それから朱い鳥居のミニチュアサイズが入っている。
ドーム状になっており、暖さんの瞳の色と同じビー玉のような青色だ。
(オルゴール? 時計?)
「時音稲荷の眷属が代々受け継ぐ"自鳴琴時計"を鳴らすと九尾の狐になれる」
「とても美しいですね……」
「あぁ。これが鳴ると中が動くらしい」
今までの怖い表情が嘘のように柔らかく微笑み、自鳴琴時計を持ち上げて撫でるように触る。その微笑みも一瞬にして、先ほどまでの無表情に戻ってしまった。
(あぁ、相当それは大切なものなんですね)
「それは、さぞ綺麗なのでしょうね。私も見てみたいです。」
「……これは、お前の御霊の加護が合わさると動き出す。
そのために御霊の加護を持つ精気の多い人間を探し出したんだ。
「な、なるほど? でも、おそらく私ではありませんよ?
御霊の加護なんて、初めて聞きましたし…… それに、活気のある人間では私はありませんよ?なので、精気も多くないと思います」
私の隣に座っている黒狐を指を刺す。
「いや。黒狐が持ち主だと言っている」
(いや、知らない知らない。
本人が知らないって言ってるんだから! 本当に知らないのよ!
なぜ、そっちを信じるんですか?)
無意識のうちに少し眉が動くのを感じた。今まで顔に出さないように努めていたが、思っていることが顔にでたのだろう。
表情を見てなのか、私の返事を待たずに続けてくれた。
「安定というのは、九尾の狐の力でこの街の妖力を安定させていることを指す。
なった後の安定の仕方は色々なやり方がある。
そこはまた後々詳しく話す」
「今は、安定していないということですか?」
「今九尾なのは、俺の父。
……妖力の安定のために自分の力を使い果たして危ない状態だ」
「急いでいるのですね?」
「そういうことだ。今、少しずつこの街の妖力が減っている。
そうすると、弱い妖が死ぬ。それに、悪い気を起こす妖が出たりする」
「それで、安定なのですか……」
暖さんは、返事の代わりに軽く頷いた。
「というか…… お前の名はなんという?」
(ほうら。順番間違ってたでしょ?)
「石川恋坡です」
「そうか。俺は、暖。好きに呼ぶといい」
「分かりました。暖さん。」
「音稲荷の神が降りてくる。そこで恋坡の御霊の加護が本物か確かめてもらう」
(あ、確かめ方があるんですね。おそらく違うと思いますけどね)
「……はい」
暖さんが立ち上がり、入って来た扉とは反対側の扉を開いた。