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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第8章。華燭のまつり
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69。秋の収穫祭!

 11月にも小さなお祭りがある。収穫祭だ。稲荷神社と聞くと、出世を思い浮かべる人が多いかもしれない。でも実は、狛犬の代わりの狐が口に咥えられているのは稲なのだ。

 秋に稲荷の神が降りてきて、収穫を祝いにくるとされているからだ。秋の収穫祭を盛大に行うのも、稲荷神社といえばなのだ。


 「収穫祭は、こちらもお祭り騒ぎになる」


 私は、疲れが一気に抜けてワクワクした気持ちになる。人間界のお祭りも何度か行ったことがあった。

 しかし、以前までは楽しみ切れるほど長居もできなかった。今回は時間も気にせず居られると思うと、楽しみで仕方がない。それに、人間界と妖界ではきっと違ったお祭りの雰囲気だろう。それも相まって楽しみなのだ。



 「恋坡ちゃん、楽しみだね!」


 私の顔が晴れたことで、思っていることが顔に出てしまったようだ。隠す必要もないので、私は笑った顔のまま返事をした。楽しいことや楽しみなことを目一杯できるというのは、ワクワクする。


 お祭りの日までに、パタパタと織った反物を形に仕上げていく。暖さんは、お祭りの準備があるようで一人で和さんのお店に通って作る。

 和さんは、丁寧に裁断をして布を合わせてくれた。指導を受けながら、その通りに仕上げていく。だんだんと着物になっていくのは、とても楽しい。頭も指先のフル回転なので、疲労感に襲われるが楽しさが勝る。


 何とか白無垢の形になり、計り知れないほどの達成感に飲み込まれる。嬉しさのため息がもれた。


 「で、できました!」


 私の声に、花さんと和さんに拍手をされて労ってもらった。ふたりのおかげで完成したのに、何だか私がすごいみたいでふわふわとしてくる。

 


 屏風のように大きく広げて飾られている白無垢は、綺麗な白色で暖さんに選んでもらったものだ。

 花さんが同じ真っ白の糸で刺繍をしてくれて、自鳴琴時計じめいきんどけいと同じ、狐の模様だ。


 「今日は、秋の収穫祭を楽しみましょうね」


 

 ワクワクとした気持ちを心にしまい、お店の外に出た。

 提灯に足が生えた一つ目の妖がぴょんぴょんと飛んで目の前を横切る。その後ろから、かけたお茶碗に細い2本の足が生えた妖が、ちょこちょこと歩いてこちらに向かって来た。


 お茶碗の妖が、私の目の前までくると頭を少し頭を下げて私を顔を見上げられた。足を曲げ伸ばしをしてスキップをするように神社の方へ歩いていく。カチャンカチャンと軽快な音を立てて、楽しそうだ。

 お茶碗の妖の後ろ姿を見送っていると、たくさんの妖たちが集まってきていた。



 神社の方から、お祭り特有のおはやしの音が聞こえてくる。出店も立ち並んでいるようだ。各方向から店主の元気な声が聞こえてくる。


 「奥方! 以前は子どもたちを助けてくださり、ありがとうございました」

 

 パタパタと走ってきたのは、豆腐屋の店主とそのこどもだった。こどもは、私の足にぎゅっと飛びついてくれた。私のことを見上げて、ケラケラと声をあげて子供が笑う。


 「おねえちゃん、ありがとう〜」


 その満面の笑みに、私もつられて笑顔になった。私は、親戚の中でも一番下で妹もいない私からしたら、小さい子との関わり方がわからない。しかし、この太陽のような笑顔を守りたいと思った。

 それに妖界はおとなだけでなく、こどもたちも人懐っこくて親しみやすい。


 (私だけの力で、助けれたわけじゃないんだけど)


 「どういたしまして?」


 私からぱっと離れて、子供の母親のところ走って戻っていき、後ろを振り返って手を振ってお祭りの出店の中に消えていく。

 私の肩を右から花さんが、左からは和さんがトンッと手を乗せられた。


 「さ、私たちも行こう」


 

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