6。暖さん?
和さんのお店をでて、稲荷神社を目指す。
「暖はね、時音稲荷の神のつかいなんだよ〜」
「その神のつかいっていうのは、どう言う意味ですか?」
「うーんとね、神のつかいというのはね! ……あっ!白狐と黒狐が迎えに来たみたいだよ!」
律さんが前の道を指差す。目の前に私をここまで誘った、白い狐と黒い狐が座っている。
(わぁー。なんといいところにー)
「白狐と黒狐について行ったら、仲間で案内してくれるんじゃないかな〜」
「律様、ここまでありがとうございます。私と黒狐でご案内します」
「……暖さまが律さまに会いたがってましたよ。一緒に行きましょう」
「ぅえ、僕?
えぇ〜! どうしようかな〜」
(このまま律さんと別れたら、ひとりになる! ……こまるこまる!!)
「り、律さん! 一緒に行きましょう?」
今度は私が律さんの腕をガシッと掴んだ。……半分涙目で。
「んんん〜。しょうがないなぁ〜。
恋坡ちゃん…… そんな売られる町娘みたいな顔をして〜」
(いや! あながち間違ってませんが? 売り飛ばされる町娘の気分ですが!)
「ひとりにしないでください!」
「う〜ん、白狐、黒狐。一緒に僕も行くよ〜」
「「ありがとうございます」」
(普通に話をしてたけどね? 当たり前のように、この2匹も喋るんだもんなぁ。
私もそんなことで驚かなくなって来たことが、何より恐ろしい……)
2匹に連れられ、千本鳥居と呼ばれる鳥居で道をつくられた神道を歩く。
ジャリジャリッと2人と2匹の足音だけが響く。
(うわ。気まずい。せっかく律さんも来たから、さっきの眷属の話の続き聞きたかったのに!
すごく聞きづらい雰囲気!)
鳥居の脇には足首丈程の雑草も全く生えておらず、きっと誰かが定期的に抜いて綺麗にしているのだろう。
千本鳥居も全てが鮮やかな朱い色で、大切にされてるお社であることが見てとれる。
「律様は、こちらでお待ちください」
「恋坡さま。私、黒狐について来てください」
「えっと、はい。律さぁん〜」
(ついに、律さんと離れ離れ。返事をつい勢いでしてしまった!
嫌だよ。どうしよう……)
「はーい。行ってらっしゃ〜い!」
律さんはニコニコとした笑顔でこちらに手を振っている。
……黒狐さんについて行かざる終えない雰囲気だ。
肩を落として、前をいく黒狐さんについて行こうとした。
「おい。なにしてる。お前が御霊の加護を持っているんだろう?」
黒狐さんが案内しようとした道の先から、低音の耳障りのいい声が聞こえた。
大きな木にもたれかかっている、すらっとした男性が立っていた。
長い白い髪で毛先が青色。その長い髪を後ろでポニーテールに結んでいる。
「はい? なんと言いました?」
「違うのか?」
「そうです。暖さま」
黒狐さんは、白髪の男性に ”暖さま” と呼んだ。そして、小さくこくんと頷いている。
(この妖が、暖さん! 確かに! 子供達が言ってた、見た目は怖そう…… ってやつ分かるなぁ。
というか、なんて? 言いました? 御霊?)
キリッと切長の青色の瞳で睨まれるような目つき。ビー玉のような澄んだ青色の瞳で目の中に吸い込まれそうだ。
しかしその色とは反対に、強い口調と目つきに冷や汗が垂れる。
「……よく分かってない。という顔だな」
「何も説明を受けておりませんので……」
(いや! やっぱり、怖い怖い! どこが優しい人なの? 子供たち!)
怖い思いが勝り、思わずだんだん声が小さくなっていく。
「暖さま、一度きちんとご説明をなさった方がよろしいかと」
「ああ。応接間に案内する」
「畏まりました。 ……恋坡さま、こちらのお部屋です」
(その部屋で、私は食べられてしまうの?)