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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第7章。強くなる!
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59。恐ろしい存在!

 カツンカツンとヒールの高い音を響かせている人物が、私たちのいる奥の部屋の近くまで来ているようだ。どんどんこちらに向かってきている。



 「もう一度聞くけど、何しにきたの?」



 再度同じ質問を律さんが投げかける。その声は、先ほどより警戒心が滲んでいる。私の隣の黒狐は、音が出てしまうほど震えて怯えている。どんどん冷や汗が出てきていて、白狐が背中を撫でているが全くもって気休めでしかない。



 一定のリズムで近づいてきていた足音が、ピタリと止まった。そして、男性にしては高く女性にしては低い声で笑い出した。



 「ねえ、今隠したのって?」


 律さんの声よりも大きな声で聞こえてくる。静かな部屋に、その人物の声が響いているように感じられた。それはただ、みんなの危険という雰囲気に飲まれているからかもしれない。


 「危険なものから離しただけ」


 返事の代わりに笑い声が響き渡った。そしてまたヒールの音が聞こえてきたが、今度は離れていくようだ。


 隣の黒狐もほっと、肺に溜まった息を吐き出した。しがみつかれた私の腕は、黒狐の汗でぐっしょり濡れている。相当怖かったのだろう。


 扉が鳴って外に出ていったようだ。しかし、扉が開いただけかもしれないと私は動かずにじっと待つことにした。


 しばらくして、律さんが私たちを押し込めた部屋の扉を開けた。白狐が律さんに飛びついた。私も立ちあがろうとしたが、黒狐にぎゅっと着物を掴まれて立ち上がれなかった。


 真っ黒な狐の姿で、猫のように私の着物に顔を擦り付けられた。


 「怖かった……」


 白狐も、黒狐に同感なようで律さんに目で訴えているようだ。律さんは、白狐を撫でて真っ白な狐を抱き上げている。黒狐に視線を落としたら、すでに少女の姿になっていた。


 「さっきのことは、無かったことにしよう〜」


 律さんは、いつも通りののんびりとした話し方になった。私たちを安心させるためかもしれない。それでもその声に、私の緊張は幾分か楽になる。


 そして花さんと和さんは、少し空けている間に溜まった仕事で忙しいのだという。


 花さんは糸を紡ぐ。その糸で和さんが着物を織っているようだ。花さんの糸は強くて丈夫で人気があり、和さんの着物は丁寧に織られるので着心地が良い。


 そのため、別の街からも注文が入るそうだ。こないだの天空街からもお客さんがいると、和さんが言っていた。律さんは、妖がたまにやってきて夢を買っていくので基本は暇をしているという。



 夢なら自由自在に操れる律さんなら、勝手に夢を見せてと好き勝手にできてしまいそうだが。そんなことは、したくはないという。私からすれば、私の夢を勝手に取り出していたのにと思ってしまう。



 白狐も少女の姿になり、律さんの掃除の手伝いを始めた。ぴょんぴょんと飛び跳ねて真剣に掃除をしている様は、とても可愛らしい。いつもなら、黒狐と白狐は反対の行動をとっているのに、今日は先ほどのことがあり黒狐はかなりぐったりとしている。



 黒狐は、私の着物をから手を離して立ち上がった。私もそれについていくかのように立ち上がる。律さんが椅子を出してくれて、座って布で瓶を拭く仕事を与えてくれた。

 黒狐は、沈んだ顔で丁寧に夢が詰められている瓶を拭いていく。


 白狐は、律さんが下ろした瓶をこちらにせっせと運んでくる。なんだかビデオをゆっくりと再生しているように、重たい空気だと感じる。白狐は楽しそうにしているが、隣の黒狐の重たい雰囲気がこの空間を飲み込んでいるようだ。



 「先ほどのは、本当に危険です。恋坡さま、もし会ったら逃げてくださいね」


 黒狐が重たい口を開いた。手足はいやなぐらい重たく、口は布を詰め込まれたように動かない。それは、ようやくはなした黒狐の表情が恐ろしいものを思い出すような顔だったから。


 白狐がそんな黒狐を見かねて、背中を撫でて私の顔を見て首を振った。瓶を棚から下ろしている律さんも、下を向いて何も言わなくなってしまう。


 (こんな黒狐、見たことない。過去になにかあったんだろうな。何も言わない方がいいよね)



 律さんが、私の隣に椅子を引っ張って来てため息をつきながら座った。


 「さっきのは、化け猫でね。一回、黒狐は食べられかけたことがあったんだよ〜」


 私は目を思いっきり開いて、驚いた。妖が人間を食べるというのは、怪談話なんかでよく聞く話だ。それに、ここへ来て自分自身がそう言われた。しかし、妖が妖を食べるなんて聞いたことがなかった。



 しかし、先ほどの黒狐の反応を見るとこの話には納得ができる。


 「暖さまに、恋坡さまの…… 奥方さまのことを頼まれて残っているのに!」


 

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