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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第7章。強くなる!
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58。大きな黒い池!

 そうして、私は律さんのお店に向かった。大きな柳の木が風になびいている。風で落ちた一枚の柳の葉が、側にある大きな黒い池に落ちた。私は、ぷかぷかと浮かぶ葉を目で追っていた。

 


 しばらく浮かんでいたと思ったら、池の中央まで流れていき急に円を描くように池の中に吸い込まれていった。


 私は、先ほどまで優雅に浮かんでいた葉が吸い込まれていく様に驚きを隠せないでいた。吸い込まれていった葉は、浮かんでくる様子を感じられない。


 「その池の先には黄泉の国と繋がってます。中に入ってしまうと、暖さまでも助けられないので気をつけてくださいね」


 今の説明通りであれば、今の葉は黄泉の国に吸い込まれてしまったのだろう。もし自分がそうなると思うと、身の毛が立つ。恐ろしくなって、私は池から離れた。


 (なんでこんなところで、律さんはお店をやっているんだろう)


 律さんの目の前には、この大きな黄泉の国に繋がる黒い池が広がっている。私なら、こんなところを選ばない。万が一があったらと、そう思うと商売どころではないと思ってしまう。



 黒狐が、リンリンと高い音を立ててお店の扉を開いた。中には、律さんだけがいた。パタパタと毛はたきで掃除をしていて、少し埃っぽさを感じる。



 「恋坡ちゃん、いらっしゃい〜」


 相変わらずのんびりとした律さんの話し方に、私まで穏やかになる。このお店は、日中でも薄暗い。高いところにある小窓から、小さく灯りが入ってくるだけだ。その光が夢の瓶にあたり、キラキラと光を放っている。


 何度見ても、夢が液体になり瓶に詰まっているというのはなんとも不思議なものだ。色もカラフルで、ない色はないのではと思わせるほどの量が並んでいる。私の緑色の夢も、おそらくここの一本として並んでいるのだろう。



 「律さんは、目の前の黄泉の国の池が怖くないのですか?」


 天井を見上げ、律さんはしばし考えているようだ。パタパタと掃除してていた手も、完全に止まっている。


 「うん、怖くないよ」


 悩んだ末、出てきた声はとても明るかった。落ちなければ問題ないのであれば、何も怖くないのかもしれない。それでも真っ黒の池で、禍々しさを感じる。本当に何もないのかと思ってしまう。



 私の後ろの扉が再度、入り口のベルの高い音を鳴らして誰かが入ってくる。律さんがその人を見るや否や、怖い顔をした。そして、私の腕を引っ張ってお店の奥の部屋へ押し込められた。黒狐と白狐は、狐の姿になっていて、私の足元にいる。


 かなり狭い部屋で、部屋というよりも物書き場所といった場所だろうか。掃除道具や木箱が置かれている。そんな狭い空間に、ものすごい勢いで閉じ込められた。


 ただならぬことだと、瞬時に感じた。また、私は狙われているのだろうか。しかしもうすでに、私の体からは鍵は取り出されているので持っていない。


 私は振り返る前にここに閉じ込められたので、誰が来たのか分からなかった。まだ会ったことも無い人で、もしかしたら見てもわからないかもしれないが。



 黒狐はしっかりと見たようで、私の足にしがみついてガタガタと震えている。白狐はそんな黒狐の背中を撫でて、落ち着かせようとしている。

 それでも黒狐の震えは落ち着かず、私の足まで揺れるほど震えている。

 

 私は、そんな黒狐が心配で声をかけようとした。


 「だいじょ……」


 口を開いて声を出したら、ものすごい勢いで白狐が白い煙を立てて少女の姿に変わり、私の口を手で塞ぐ。怖い顔で私のことを見て、手を離して指を口の前に当てて静かにするように促してくる。


 私は自分で口を手で押さえて、2人の視線に合わせられるようにしゃがんだ。

 白狐も先ほどのような白い煙と共に、白い狐の姿に戻った。



 「あれは、危険です」


 白狐に、耳元でこっそり話をされた。隣の黒狐にも聞こえなさそうな声量で伝えてきたということは、白狐も内心は黒狐のように恐れているのだろう。


 部屋の外から、律さんのかたい声が聞こえてきて息を潜めた。すごいスピードで私を引っ張ったのだから、律さんにとっても危険人物としているのだろう。


 「何しにきたの?」



 相手は律さんの問いには何も答えず、足音だけを響かせている。

 妖たちは下駄を履いていて、懐かしい音を鳴らす。しかし今聞こえてくる足音は、ヒールの靴のような音なのだ。床にヒールが突き刺さる乾いた高い音が響き渡る。


 (ヒールということは、人間界の人なのだろうか)



 

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