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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第6章。恋!
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56。寂しさ!

 お詫びの品と、お祝いの品を同時にいただくことになった。山神は、ゆっくりとした動きで立ち上がった。そして今日は、これを渡しに来ただけだからこれで帰ると言う。


 私も慌てて立ち上がった。


 「本当に、今回はすまなかったねえ。じゃあ、また」

 他の天狗たちも一斉に立ち上がり、頭を下げた。山神は軽く手を振って、踵を返す。部屋の入り口に座っていた、黒狐と白狐が扉を開けた。


 私に危害を与えたと、かなり天狗の山では問題になったようで、怪我もなく無事に稲荷街に帰せたと一安心なのだそうだ。コソコソと話していた次の山神が私にそう教えてくれた。

 きっと私が、たくさんのお詫びとお祝いの品々に表情が固まっていたのだろう。


 (無事に帰ってこれたから、問題ないんだけど)



 黒狐が開けた扉とは反対の、隣の部屋と繋がる扉が開く。かなり勢いよく開けたのか、思わず振り向いてしまうほどの音が響く。


 「これから、神在月に行ってくる。そこで正式に暖を紹介してくる。これからも、天狗の山にはお世話になる」


 時音様がそこには立っていた。以前と同じ赤い着物に、顔は狐面をつけ頭を布で覆い肌は一切見えない。ゆっくりこちらに近づいてきて、天狗の目の前まで歩いて行く。



 山神は、笑って右手を自分の腰を軽くぽんぽんと叩く。

 「もう、私は歳だからねぇ。でも、私がいなくなっても天狗の山は時音稲荷のために動きますよ。

 ちょっと、奥様には迷惑をかけてしまったけど」


 山神も神さま。昔から、神さまという立場として、手をとって妖界を守って来ていた。


 それが、私利私欲のために働き大問題だったようだ。尚且つ、今まで仲良くしてきた神のつかいの奥様ということでかなり大ごとだったそう。さらには、天狗の山の大きな問題の山神の息子を解呪かいじゅしたとして頭が上がらないのだという。


 (私は、何もそんなすごいことをしたわけじゃないのに)



 「妖界もこれで、安定する。いい報告ができそうで何よりだ」


 暖さんはさきほど、もらったばかりの小さな葉っぱのうちわを時音様に手渡した。時音様は、手を出さず袖で器用にそのうちわを受け取る。うちわが形を変えて、黒の扇子になった。


 「暖さんに似合うねぇ」

 そう言って、天狗は背中を向けて帰ってしまった。


 

 山神からもらった小さなうちわは、新しい九尾の狐に友好の証として贈られる。そして、時音様の神の力で天狗でなくても使えるようにと扇子に変える。

 その扇子は、山神のうちわと同じように風を起こすことができるそうだ。今回は、その黒の扇子を使って出雲の地を目指すという。



 「家族に一度会いたいそうだね」

 相変わらず、時音様の声は耳で聞くというよりも頭に流れてくるような不思議な感覚の声だ。



 「はい。安心してもらうためにも、その方がいいかと思いまして」


 狐面の時音様は、首をこくこくと動かした。顔を動かしても肌は見えない。この人は人間のようにも見えるがやはり人間ではないのかと、思ってしまった。



 「わかった。もう出雲に行かなくてはいけなくて。ここ何年も、九尾の狐の体調不良ということでずっと不参加だったから。少し早めに行かせてもらうよ」



 神在月が終わったら、神社の扉を開けてもらい人間界に行くことになった。

 暖さんは、ゆっくり頷いた。時音様が暖さんに声をかけ、一緒に隣の部屋に入って行く。私の目の前を通り過ぎる時に、暖さんに頭を撫でられた。

 私は、暖さんの背中を見送った。大きな背中が今は、遠く感じた。


 「律さんたちのところに行きましょう」


 黒狐はそう言いながら、私の顔を覗き込んでくる。黒狐の瞳は、私が映るほど澄んでいる。その澄んだ瞳に私の寂しさを見透かされているようだ。律さんたちのところにいればきっとすぐ戻ってくるだろう。

 自分が残ると言ったのに、寂しいなんて口が裂けても言えない。


 「はい、行きましょう」


 白狐も、少し心配そうな表情を私に向けている。この感情は、ただの私のわがままなものだ。ふたりに心配はないと、私はいつも通りを心がける。



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