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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第6章。恋!
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55。人間の力!

 黒狐と白狐の後ろをついて時音ときね稲荷神社に向かう。手を握られ恥ずかしいが、振り解くこともできずにいた。


 雨上がりでじとりとする空気の中、天狗たちのカラッとした笑い声が響く。


 神社の中に入り、応接間に入る。以前のように低いテーブルを囲んで座った。そして、山神がたくさんの箱を開けるようにと口にした。暖さんに促されるまま、私はひとつづつ開けていく。



 箱の中からは、カラフルなお皿やガラスでできたグラスが入っていた。どれも綺麗で、雨あがりの空から覗く太陽の光がガラスに反射した。



 「どれも綺麗ですね!」



 「奥様に喜んでもらえたなら、選んだ価値があるねぇ。これは、早いけど結婚のお祝いの品ということで。

 こっちの酒は以前のお詫びの品。もう先の長くないから、私の次はこれになるからね」

 


 これ、と言われて嬉しそうにニコニコと笑って会釈をする天狗が山神の隣にやってきた。先ほど駆け寄ってこそこそ話をしていた天狗だった。おそらく以前話に出ていた、養子に迎え入れた息子だろう。


 真面目そうな雰囲気を感じて、きっと天狗の山はこの天狗に任せたら問題なさそうだ。



 「わざわざ、作らせたのか」


 そう言って暖さんは、ひとつグラスを手に持ち見定めているようだ。気泡一つも入っていない、丁寧に作られたことがよくわかるグラス。模様の一つとして気泡を入れることもあるが、今回の柄がなく色味がついているだけのグラスには似合わないだろう。


 暖さんはその丁寧に作られたグラスを見て、わざわざ作らせたと思ったのだと私は感じた。


 山神は肯定も否定もせず、高笑いをした。そして、自分の帯から二つの葉っぱのうちわを取りだした。


 一つは、以前使っていた大きさのもの。もう一つは、かなり小ぶりで手のひらよりも小さい。


 その手のひらより小さな葉っぱのうちわを、暖さんに差し出した。


 「これは、暖さんがここのつかいになるお祝いのために以前から用意していたもの。奥様が現れたので、そろそろかと思いまして……」



 「あぁ。実は、昨日消えて亡くなった」


 天狗たちは、何も言わずに深く頭を下げた。しばらくして、重たい口を開くように山神が顔を上げて口を開く。


 「良い九尾だった。きっと、暖さんもそうなる。妖は人間とは違って消えてなくってしまう。

 それでも、覚えててくれるものがここに必ずいる。暖さんは、お父さんの心を胸に引き継いでいる」


 山神は、暖さんなら大丈夫だと言って励ました。暖さんは、じっと山神を見つめ動かない。少しの間を開けて、軽く息を吸う。


 「問題ない。こうなるのは、ずっと前から覚悟はしていた。それに、俺は一人じゃないから」


 (暖さんが、必要だと言ってくれていた。お飾りとしてではなくて、必要な人に私はちゃんとなれたのかな)



 暖さんは手に持っていたグラスを置いて、先ほどの小さなうちわに持ち替えた。その小さなうちわを見て、微笑んだ。


 「そうかと思ってたんだよ。

 ……それにしても、暖さんは表情が柔らかくなったねぇ! 昔、暖さんのお父さんもお母さんと出会って変わったんだよ。人間は凄い力を持っているんだろうね」



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