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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第6章。恋!
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54。番傘!

 私は洗い物も終わり、たすきがけの紐をしゅるりと解いた。軽く叩いて、たすきがけでついてしまったシワを伸ばした。大振り袖の鮮やかな赤色が、心を華やかにしてくれる。


 暖さんが準備ができたと、居間に入ってきた。紺色の着物に、同系色の羽織を羽織っている。髪は、下で一つに結われている。いつもはポニーテールの高い位置なのに対して、今はかなり低い位置だ。先ほどまでの、少し幼い雰囲気は消えてキリッとしている。

 襟を正すような仕草をして、玄関に向かった。



 私もそのあとを追う。玄関の扉を開けると、雨が降っていた。暖さんが、白の大きな番傘をさした。一緒にその傘に入る。

 外では、妖たちがはしゃいでいた。傘から足の生えた妖は体を広げて、その下でカエルが雨宿りをしている。


 どの妖も、雨降りを楽しんでいるように見えた。



 天狗にここまで送って貰った側の入口まで、迎えに行く。黒狐が、歩きやすいようにと柔らかい生地の鼻緒の下駄を用意してくれた。

 正直、こういう優しい気遣いがありがたい。着物の着付けの時にも、動きやすようにと気を遣ってくれる。



 暖さんの左側を歩いた。雨の中をゆっくりのスピード出歩いていく。


 暖さんは、結んだ髪を左肩に乗せている。その髪が私の肩に触れるほど、近い距離感にいる。



 静かな空間でなおかつ近距離に耐えられず、少し距離をとったら詰められてしまった。雨に濡れるからと言われれば、その通りなので大人しくこの距離を保つことにした。



 街の入り口にある柳の木が、濡れてしょげているかのようにしなっている。


 大粒の雨が、それまで降っていたのに天狗の周りだけは晴れている。暖さんが傘を音を立てずに閉じた。


 たくさんの天狗と、先頭には神輿が一基。その神輿の中から、山の長である山神が降りてきた。


 「なんだか、狐の嫁入りみたいだねぇ。あ、暖さんは狐だから本当に狐の嫁入りなのか!」



 「山神様! 今日は、お詫びで……」


 隣に素早く駆けつけた天狗が、こそこそと山神に話している。山神は、忘れていたと手を叩いた。


 後ろについてきていた天狗たちが、たくさんの酒樽や謎の箱を持って並んでいる。皆がにっこりとした笑顔でこちらを見るので、少し怖さを感じさせる。



 暖さんは、目をぱちくりとしていた。私は、山神と暖さんの間を目で行き来する。

 「これは、すごい量だ。その箱はなんだ?」


 山神は、ははっと笑って時音ときね稲荷神社の中で開けましょう。と提案をしてきた。その提案に答えるように、暖さんは左手に傘を持ち替えて右手で私の手を取った。


 雨あがりの独特の香りに包まれる。神社の方はまだ雨雲が薄くかかっている。天狗が足を入れると、先ほどの雨雲がどんどん晴れていく。


 天気とは反対に、私の心は天狗の前で手を握られ恥ずかしくて傘で視界を遮りたい思いになる。



 後ろの山神の笑い声が聞こえてきて、より恥ずかしくなった。手に汗が滲むような感覚になり、手を離してしまおうかとさえ思ってしまう。悶々とした思いでいっぱいになった。


 目の前から少女姿の黒狐が歩いてきた。その後ろからひょこひょこと、白狐がついてきている。先ほど、私に着付けをしてくれた時とは違ってとても上質な着物を着ている。



 ふわふわとしたリボンで髪を一つにふたりとも結っている。歩くたび、動きに合わせてリボンが揺れている。



 「神社も準備が整いました」


 相変わらず、白狐は首を縦に振ってコミュニケーションをするようだ。首を縦に振ったと思ったら、すぐに黒狐のうしろに隠れる。




 

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