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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第6章。恋!
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51。えっ!

 二階に上がって、太陽の香りのする布団を広げ中に入る。布団で横になっても、もちろん寝れるわけもなく目が冴えてしまっていた。

 先ほどのやりとりが、強烈な生々しさで胸によみがえり現実のことだったとようやく理解した。



 (さらっとキスしちゃったけど、ファーストキスなんですけど? あぁ、どうしよう…… 寝れない)


 しばらく悶々として、右に左に体を動かしてなんとか寝ようとした。目を固くつむって、太陽の香りを肺の奥まで吸い込む。


 かなり時間が経ったようにも感じるし、まだ数分のようでもあった。用意されていた、蝋燭の火はすっかり燃え尽きていた。部屋は、真っ暗で月明かりだけが部屋を照らす。

 どうにも眠れる気配を感じなくて、体をおこしストレッチをして体の緊張をほぐそうとした。腕を伸ばしてみたり、首を回したりしてみる。



 「恋坡」


 扉の向こうから、暖さんの声がした。ちょうど体を起こしていたので、少し胸元を整えて扉を開いた。今ようやく先程のことが、現実だったと理解できたばかりで視線を合わせられない。


 私は、返事の代わりになんとか頷いた。暖さんがもつランタンの狐火の柔らかい灯りが、ふたりの顔を照らす。火のゆらめきが、私の心のようだ。




 「いつも人間界では、朝は何を食べている?」

 突然、斜めの角度から質問が飛んできた。


 (急にどういう質問?)


 私の固まっている姿を見て、他愛のない会話で落ち着かせようとしてくれているのかもしれない。見上げると、暖さんの顔は穏やかな表情をしていた。

 その表情に、少し緊張がほぐれた。


 「自分でいつもは準備していて、特になにかと決めていません。暖さんは、いつも決まっているのですか?」



 暖さんは左手でランタンを持っていて、下ろした髪は私とは反対にストレートだ。絹のような綺麗な髪が、肩に少しかかっている。

 質問の答えは返ってこず、目の前をさっと通り過ぎた。なぜだか、あたかも当たり前なことのように部屋の中に入ってきたのだ。私は、目を白黒させてしまう。



 暖さんは、押し入れからもう一式布団を出して少し距離を置いた隣に敷いた。そして、布団をめくり中に入った。まだ私が、入り口で固まっているのを不思議そうな顔をして見てくる。



 私の方は、ランタンもなく暗いので表情までは見えないのだろう。しかし、暖さん側にはランタンがあり私からは表情がはっきりと見えた。

 普段から首を傾げて問う癖があるようで、今もそれをしている。



 (え? 前も私の寝てるところにいたけど。これ、普通のことなの?)


 なにをそこで突っ立てるのかと言わんばかりに、私が先ほどまで横になっていた布団に腕を伸ばして、ポスポス叩く。私は、ゆっくり近づきまだ暖かい自分の布団に入る。


 「昔、乳母が作ってくれた ”ふれんちとーすと” というのが美味しくて」


 暖さんの口から甘い食べ物の名前が出てくると思ってもみなくて、クスリと笑ってしまう。

 妖は、みな甘いものが好きなんだろう。以前、街に出かけた時に食べたご飯も砂糖がかかっているのかと思う甘さだった。天狗の山でもらった梅のおにぎりでさえも、甘かったのだから。ここの食べ物は全て甘くできている。


 ランタンの火でそう見えるのか、暖さんの顔が少し赤く見える。



 「ふふふ。私も、フレンチトースト好きですよ。パンと卵とお砂糖があれば、できますよ? ……欲を言えば、バターですかね!」


 それぞれの布団の中に入り、横を向き顔を合わせて話をする。私は肩まで布団を引き寄せて、暖さんはお腹までかけて腕枕をしている。


 この距離感が心地がいい。先ほどまでの近い距離では、私の心臓がもたない。暖かい狐火が、心を温めてくれるような気がした。ここまでいろんな事件が生きていただけに、ほのぼのとした時間だと感じる。



 「人間界のものの方がいいだろう。また買ってこよう」


 暖さんが蝋燭を消す時のように息を吐いて、狐火を消した。真っ暗になり静かな部屋になる。でも、先ほどとは違ってなんだか穏やかな気持ちでいる。徐々に、からだが浮かぶ感覚に襲われた。まぶたが重たくなり目を閉じた。


 おやすみ、と遠くで声が聞こえた気がした。



 ふわふわと私の周りを蝶が舞う。その蝶を追いかけた。下には足首ほどの丈の花畑が続いている。蝶が一輪の青い花にとまる。私は、こっそりと近づいた。


 飛んでいた時は黄色い蝶だったのに、近づくほどに色が黒色に変わっていく。


 

 指先でちょんっと蝶を触った。その蝶が大きな鳥になり羽ばたいていく。足元の花畑は消えて、大きな穴になった。穴に吸い込まれていく。



 そうして私は、目が覚めた。おにが黒い蝶に飲み込まれて夢の中に入ったのを見たからか、同じような蝶が飛び舞う夢だった。



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