5。妖界?
和さんがざっくりと、ここの世界のことを話してくれた。
要約すると、こうだ。
妖怪の住まう世界ここは、妖界と呼ばれている。そして、人間界との扉は3つ。
扉が人間界と繋がる日にちは、それぞれの扉ごとに決まっているようだ。
そして、ここの街一帯を納める神様が時音稲荷神社。この神社にも扉が存在するらしいが、神様しか通れないことになっているらしい。
そこで、律さんのお店の扉を使って私を探し出されたよう。
お嫁さん探しは、とても大切らしく。候補となる人を何人か探し出して、何年かかけて選別をするそう。その中で一番いいと思う人を白狐と黒狐が連れてくるそうだ。
詳しく話してくれた和さんでも、なぜお嫁さん探しが大切なのかまでは知らないと言われてしまった。
(でも、まって? 絶対、私じゃなくてもいいと思うんだよね。だって、私よりも活力のある人ってたくさんいるじゃない?
そんなことまでして、ここに連れて来られる人間じゃない……)
「ここの妖は人間が来やすい街になってるから、あまり人間がいても驚かないのよね」
「ん? でも、律さんは久しぶりの人間だって仰ってませんでした?」
「うん! 久しぶりに来た、人間のお客さん!」
「あ、もしかして! 扉から入って来た人間自体はそんなに久しくないんですか?」
「お客さんとして人間の夢を取るのは、100年とかぶり? かな?
あ! でも扉から来るのだって、久しぶりだよ! 何年前だったかな? 久しぶりといえば、久しぶりでしょ?」
「あぁ〜、もう! 律の言うことは適当だから、信じなくていいからね!」
「えぇっと? 分かりました……」
「今から、暖さんのところに行くの?」
「そのつもりだよ〜。だから、着付けお願いね〜」
そう言って、律さんは店先に出ていってしまった。
(律さんって…… 少し感じてはいたけど、相当適当な人?)
「可愛くしてあげるからね!」
とても手際良く、和さんは私を着付けていく。帯飾りに金の鈴を付けてくれた。
動くたびに、リーンリンと可愛らしい音がする。
「すごい素敵です! ありがとうございます!」
「本当にいい子ねぇ!
髪の毛もやってあげるからこっちに座って!」
手招きをされ鏡台の前に案内された。鏡に、私の茶色ウェーブの髪が鏡に映る。
どれだけ櫛を入れても、姉と違って真っ直ぐになってくれない好きになれない髪。
「素敵な髪の毛ね」
そう言って、飾りのついていないつげ櫛で髪を整えてくれた。やはり、真っ直ぐには整わない様子に私は俯いて視線に入れないようにした。
「いえ……私の髪の毛は癖毛ですし」
「ダメよう。女の子は自分が可愛いって思うぐらいじゃないと! ……恋坡ちゃんは可愛いわ!」
「あ、ありがとう、ございます!」
(絶対私、顔真っ赤じゃん! 熱いぐらいに顔に熱が集まる! ……可愛いなんて、言われたことないし!)
「ふふふ。言われ慣れてないのね?可愛らしい〜。ふふふ。……さっ! できたよ。鏡で見てみて!」
ハーフアップにされて、着物と合わせた牡丹の花飾りが髪に付いていた。
「可愛いです。 ……こんなに素敵な着物に、素敵な髪飾り。ありがとうございます!」
「ここでの生活は、すぐに慣れなくても大丈夫よ。みんな少し変わってるけど……いい妖ばかりだから。
どんな些細なことでも、私たちを頼っていいのよ?」
「はい! 和さん、本当にありがとうございます!
この着物のお金はどうしましょう? 私、そもそもここの通貨を持ってません!」
「ふふふ。いいのよ!」
「でも、こんなに素敵なのタダで頂くわけにはいきません!」
「うーん、そしたら…… また、ここに遊びに来て?話をするだけでも、お茶をするだけでもいいから。私とはお友達。ね?」
「お友達! 嬉しいです。」
「もう準備終わった〜? 恋坡ちゃん、そろそろ暖のところに行くよ〜」
「はい! いま、行きます!」
「このお洋服、預かっておいてあげるね!
暖さんのところへ行ったら、また取りにおいで〜」
綺麗に畳まれた私の白に赤のセーラー服。
ーー思い入れなんてない、ただの制服。