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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第6章。恋!
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49。手紙!

 時音ときね稲荷神社側から暖さんが、俯きながら腕を組んでゆっくり歩いてくるのが見えた。私は、その姿を目にとらえて立ち上がる。

 立ち上がったはいいが、なんと声をかけるべきか決めかねていた私は口を閉ざした。頭の中ではグルグルと思い悩んでいるのに、足が自然と動いていた。目の前で暖さんがぴたりと止まる。



 「……暖さん」

 名前を呼ぶのが精一杯だった。私の声に、ようやく顔を上げて目が合う。暖さんの瞳が揺れているように感じた。和さんが私の背後から声をかけてくれるまで、私は揺れる瞳をじっと見つめていた。




 「私、中に入るね。ふたりともまたね!」


 私が振り返ると、手を振ってそそくさとお店の中に姿を消した。和さんがお店に入るのを見届けて、暖さんが踵を返して歩き出した。私は、声のかけかたが分からず少し後ろを歩くことにした。



 暖さんは、少し私の方を振り返り歩く速度を落とした。そして、隣に並ぶように歩く。

 陽がかなり落ち、夕日が眩しかった。


 真横にいる暖さんの顔を伺う。暖さんの表情から、何かあったことは明白だった。私は、目線を地面に落とした。なにか元気づける言葉をかけるべきか、はたまたストレスには抱きしめるのがいいとも聞くので実践してみるべきか。

 静かな空気が流れる。何か話題をと思い、顔を上げた。



 「俺の母からの手紙を貰ったんだ」


 「て、手紙ですか?」


 何も言わず、その手紙を私に差し出される。渡されるがまま手にしたその手紙は、丁寧に三つ折りに折られており手紙を書いた主の几帳面さを窺える。

 少し黄ばんだ紙からは、暖さんのお母さんが遥か昔に書いたことが読み取れた。



 「もう家に着く。そこで話をしたい」


 暖さんは、少し寂しげな表情を見せた。その横顔からは、私はもう必要ないと言われているように感じられて心臓に冷たい風が流れる。


 (わざわざ言ってくると言うことは、そういうことだよね)



 「……はい」


 おにのところで、自分は必要としてもらっていると声高々に言っていたのに。やはり、そんなことはなかったのかもしれない。

 今まで自意識過剰だって何度も自分に言い聞かせてたのに、理解していたはずなのに。自分を過大評価して、ひとりで悲しむことになるんだ。



 好きだと認識してしまった。もう後戻りできないところまで来ていた。




 家の中に入ると、すぐに私の手の中に収まっている手紙を読むように言われた。まだギリギリ、ランタンをつけなくても手紙の文字を読める明るさだ。

 そこに書かれた文字は、私でも読める楷書で丁寧に書かれていた。丁寧におられた便箋に、丁寧な文字。お母さんからの愛がこもっているのだろう。



 「父は、息を引き取った。最後に言っていたのは、力を蓄えた御霊みたまの加護は愛が生まれると鍵となって現れるそうだ」



 「愛ですか」

 私は、独り言のように呟いた。そして、手渡された手紙に再度視線を落とす。私は、手紙を読み始めた。

 急に部屋の中なのに、ふわりと風が着物の裾を揺らした。笑い声が耳元で響く。以前ここに泊まった時に、聞いた声だ。私の周りに穏やかな風が起こる。


 「愛は輝くのよ。あなたは、暖かいひとなのね、心を溶かすひとなんだわ。ようやく、暖のところに巡ってきたのね」


 その言葉を言い終えると風が止んだ。そして、手紙が燃えて消えてしまった。この声は、暖さんにも聞こえたみたいだ。



 「お母さん」


 目を見開いて、手紙の消えた私の手を見ている。こないだ聞こえた声も今の声も、暖さんのお母さんだったんだ。


 御霊みたまの加護は、500年に一度巡ると言っていた。ということは、前の持ち主が暖さんのお母さんだったから、私は懐かしさを感じたのだろうか。

 


 「おそらく、御霊の加護と反応をしたんだろう」

 

 手紙と反応して、どうやらおかあさんの声が聞こえたようだ。御霊の加護は、巡っているので以前の持ち主の声が聞こえることがあるのだという。


 

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