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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第6章。恋!
48/84

48。平和!

 私は立ち上がって、外の空気を吸いにお店を出た。


 お店の前を子供達がパタパタとかけていく。何軒か先のお店の店主は、道路に打ち水をしている。そんな平和な日常を切り取った景色が広がっている。



 子供達の笑い声が聞こえてきた。暖さんと野狐たちの村から戻ってきた道中を思い出す。笑い声と歌い声、少し軽い足取りの暖さんの背中。



 この街を守らなければいけない立場の暖さんは、計り知れないプレッシャーがあるだろう。私が、家の歯科医院を継がなければと言われたように。姉のようにもっとできる子にならないといけない、と言われたプレッシャーのように。



 暖さんは、街という単位だ。私の家庭という単位では、考えられないほどだろう。果たして、私なんかの言葉が暖さんの心の扉を開くことはできるのだろうか。心配ではある。



 それでも、ここまで見てきた暖さんは少なくとも私のことを見て受け入れてくれているのだと思っている。少しでも、助けになるならそれ以上に嬉しいことはない。



 私は、目線を地面に落とした。ふわっと風が吹いて、砂が舞い上がる。さらさらと舞い上がった砂が、落ちてくる。落ちた先に綺麗な一輪の黄色の花を見つけた。しゃがみ込んで、摘み取った。

 



 (この気持ちまで、伝えてもいいのかな)


 右手の人差し指と親指で、花の茎を摘んでくるくる回す。沈みかけた太陽に、花をかざして見つめる。

 花弁がたくさん重なっていて、たくさんの想いを重ねている今の私にそっくりだ。


 自分の膝に顎を乗せて、花びらを一枚ずつちぎっていく。いわゆる花占いだ。きっと、誰しも一度はやったことがあるだろう。

 (好き。嫌い…… 好き)



 私は、茎だけになった花をじっと見つめていた。あの時の屈託のない暖さんの笑顔を思い出す。

 あの時よりも前からもしかしたら、好きだったのかもしれない。普段笑ってくれない。そんな暖さんが、見せてくれたあの笑顔は気を許してくれているはずだ。でもそれは、私の自意識過剰なだけかもしれない。


 あぁ。きっと、これは私の中で隠せない感情になりつつある。恋と自覚すると、顔に血が昇るほど恥ずかしい。

 


 茎を摘んだまま、膝と腕の中に顔を埋めた。目を閉じて深呼吸をした。今、父さんがいなくなってしまうかもしれないというのに私はなんてことを考えていたんだ。そう自分を叱責した。



 「ねえ、花占いするってことは?」


 私の背後から和さんが声をかけてきた。急に声をかけられて驚いて、顔をあげて振り返った。バランスを崩して手を地面について転ばないように耐えた。


 和さんは、両手を胸前で手を合わせて謝罪をしている様な仕草を見せた。仕草とは反対に、表情は嬉しそうだ。



 「花占いをするって、もうそれは好きってことでしょう?」


 「……きっとこの好きって、そういうことなんですよね」


 私の質問には答えてくれず、ただただ声を出して笑っているだけだった。ひとしきり笑った和さんは、私の横にしゃがみ込んだ。腕に顔を乗せて私の方に顔を傾げて見てくる。



 「愛ってね、人の心を溶かすものだよ」



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