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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第5章。雷!
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45。おにと鬼!

 黒の蝶が再度、ふわふわと漂った。先ほど話していたように花さんの伸びた髪の毛が蝶々の中に入り、巻き付いたようだ。黒の蝶が黒の粉になって消えていく。その中から、案内をしたおにが先に戻ってきた。穴は消える前までは笑っていたのに、笑みが消えていた。そして少し俯き、じっと地面を眺めている。



 私は躊躇わず、手にあった桃を投げつけようとした。おにが、巻き付かれた花さんの髪ごと地面に転がった。的が動いたことで、私は手を振り上げて投げる直前で動きを止める。ゴロゴロと、イヤイヤ期の子供のように転がっている。



 その間、おには何も言葉は発しない。私たちもその動きに、呆気に取られしばし沈黙が流れた。そうこうしているうちに、黒の蝶が再度現れ粉になって消えていく。小さくなったままのいかづちが戻ってきた。こちらも、無言を決めているようだ。おそらく、律さんの見せた過去の夢の中でなにかがあったに違いない。

 なんと声をかけたらいいのか分からず、私は桃を投げる構えから腕を下ろすことしかできなかった。

 


 突如、地面で転がっていたおにの動きが止まった。仰向け状態で地面に寝転がったまま息を吸った。

 「僕は、鬼にはなれんのか。おにのままなのか」




 正直、私には鬼だろうがおにだろうが変わりはなさそうだが。このおにからしたら、大きな違いなのだろう。嘆いている声で、今にも泣きそうな表情だった。

 そして、そのおにの独り言の様な質問にいかづちが答える。




 「なれない。おにとして生を受けたらそう生きるしかない。逆に、鬼として生を受けたらそれを全うしなくてはいけない」



 その言葉におには、小さく返事を漏らしていた。私は、頭にハテナを浮かべそばに立っていた暖さんを見上げる。彼もあまり違いがわかっていないのか、手を顎に添えて考えているようだ。

 一番近くにいたので、こっそりその違いを聞こうとしていたが、教えてもらえなさそうで静かにしておこうと思った。




 「鬼になれば、僕は皆に認められると思ってた。でも、僕は鬼にはなれず。

 呪いをかけるだけの悪いおにだったわけか」



 (ああ、このおにも私のように認めてほしいと思ってたんだ。私も認めてほしいがために、がむしゃらに努力をしていた。だから、このおにのその気持ちが痛いほどによくわかる)




 「鬼、というのもいいものではない。鬼は、おにに憧れるんだ。所詮、ないものねだりというやつさ」

 花さんは、反省の色があると思ったようで巻きつけていた髪を離した。



 花さんの隣にいたはずの和さんが消えていた。私は、周りを見渡して和さんを探した。

 暖さんが、そんな私にこそっと教えてくれる。口元に手を添えて、内緒話をするポーズをとって。



 「和は、姿を少し消すことができる。あの時助けてくれたと言っていたのも、その力のおかげだ」


 なるほど。ある程度妖力のある妖には、それぞれ力があるようだ。その力を駆使して、戦ったり自己防衛をすることに使う。



 (暖さんの得意なものは、狐火かそれとも時計の絵でワープする力?)


 


 和さんが、おにの前にさっと姿を現した。仰向けで寝転がったままのおにに手を差し伸べている。

 「少しは、目が覚めた? 手にないから望むんだよ。それなら今、あなたの手にしているものは何もないの?」



 おには、少し躊躇いながら差し伸べられた和さん手を取って立ち上がった。立ち上がるとすぐに和さんの手を離して、両手を開いて覗きこむ。



 手を開いては閉じ、手の甲にしては開いて閉じて。手の動きを確認するように、じっくりと自分の手を動かして眺めている。

 和さんの質問に対して、答えを探しているように見える。


 (私は、あの時 "必要だ" の言葉に救われたんだ。それなら、私がいま、できることは……)



 「あ、あの! 私も、必要とされたかったんです。でもその願いは叶わない、そう思ってました。

 でもここの皆さんは、何もできなくても私を認めて受け入れてくれました。そして、必要な存在だと言ってくれるんです! きっと、あなたにもそう思っている妖がいると思うんです!」



 「そんな妖は……」


 悲しそうな顔で私を見て、首を振った。 ”そんな妖はいない” そう言葉が続きそうだ。妖がいないというのならば、人間であればいいのだろうか。そう思って、私はピシッと大きく手を上げた。



 予想外だったようで、ここのみんなに目を見開かれてみられてしまった。



 (え? なんかまずいことしたかな。でも!)


 「私が、必要とします! まずは、いかづちを元の大きさに戻してください。

 それができるのは、あなただけです。私のこの願いは、打ち出の小槌の持ち主しか叶えてもらえませんから」



 みんなの視線を集め、少し不安な思いが湧いたが私は自分の考えを堂々と言うことにした。どんな自分でも、ここでなら受け入れてくれると信じようと思ったから。


 そして、この思いが伝染しておににも感じてもらいたかった。



 「わかった」

 おにからは、小さな返事が返ってくるだけだった。打ち出の小槌を取り出して、いかづちの近くへ行き頭上で数回振った。そうすると、みるみる元の大きな体に戻った。


 


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