42。まさか!
煙の出る山の近くまで来ると、溶けそうなほどの暑さに変わる。もう暑いではなく、熱で溶ける熱さだ。そう考えていると、真っ黒の雲が降りてくる。
その雲の上に、鬼が立っている。その姿は、私たちが節分の時につける鬼のお面の顔。背中には、雷神のような三つの太鼓を背負っている。
「なあ、雷〜いつまで怒っているんだ? そろそろ機嫌を直せよ」
ここまで案内をしたおにが、雷にも気さくな口調で話しかけた。
(このおにが、有名な雷! オーラが、違う)
受け取った打ち出の小槌は、着ている黒の着物の帯に差し込んだ。両手をひらひらとさせて、少しおどけた雰囲気も感じ取れる。
「そもそも、お前がこの妖界の秩序を乱したんだろ。
それとも仲がいい、天狗のせいだと?」
天狗と仲がいい? おそらくここにいる全員が疑問に感じただろう。案内役のおにを除いて。
雷は雲から飛び降りて、どすんどすんと大きな音を立てながらこちらに歩いてくる。そして、太鼓のバチで案内をしたおにを指を指すように使った。
「九尾の狐の嫁殺しか〜。懐かしいなあ。でも、天狗がやるっていうんで助けただけだ。
あいつは、上手くできない奴だったみたいだけど! さらにこの打ち出の小槌を盗んで、好きなようにしていたみたいだし」
暖さんは、今の話を聞いて殺気立っているようだ。それもそのはず、自分の母を殺した話だ。
このふたりのおにのやりとりで、過去なにがあったのか聞けた。
そもそも、この雷街はそのまま雷が治めていたそうだ。そこに案内をしたおにが、突如ここは自分が代わりに治めると戦いを申し込んだ。
取り合わなかった雷に腹を立てて、となりの山の天狗と手を組んだという。その天狗がこないだの大男のことだった。その大男もまた、山神を目指していた。
天狗が山神となって、自分に味方をしてもらい一緒に雷を倒そうとしたようだ。そこで、 ”手伝った” ことが九尾の狐の嫁を呪うことだったそうだ。九尾の狐の嫁 ……つまりは、暖さんのお母さんのことだ。
そこで弱った母を救うために、幼馴染の律さんを暖さんは連れて桃を取りに行ったそうだ。桃は、不死の妙薬として食べれば呪いを解呪できるそうだ。
そこで、大男の天狗に見つかり殺されそうなところを和さんが助けた。そうこうしているうちに、呪いによって母は亡くなってしまった。というのだ。
その結果、妖界の秩序が崩れてしまい、それぞれの街の力バランスがおかしくなってしまったそうだ。
その隙を狙って、案内役のおにが雷を街から追い出した。そして、雷の怒りが雷となって落ち続けているそうだ。
楽しく街で案内役のおにが過ごしている時に、こっそり天狗が打ち出の小槌を盗んだというわけだった。
(なんて自分勝手なの? そんな自分のことのために、暖さんのお母さんは殺されてしまったの?
そして、私のことまで狙って…… そんなことで巻き込まれたなんて! 絶対に許せない!)
私は、少し前に立っている暖さんに視線をやる。前に立っているので表情は読めないが、話を聞けば聞くだけ殺気が強くなっているように感じる。私にしてくれた様に、暖さんの手をぎゅっと握った。
暖さんは少し驚いた顔で、私のことをみてくる。暖さんの側には、私がいると伝わるかな。そんな思いをこめて、少し強く握った。少し微笑む様な顔を見せてくれた。
その顔を見ると、私の心の声が聞こえた様でほっとした。




