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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第5章。雷!
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42。まさか!

 煙の出る山の近くまで来ると、溶けそうなほどの暑さに変わる。もう暑いではなく、熱で溶ける熱さだ。そう考えていると、真っ黒の雲が降りてくる。

 その雲の上に、鬼が立っている。その姿は、私たちが節分の時につける鬼のお面の顔。背中には、雷神のような三つの太鼓を背負っている。



 「なあ、いかづち〜いつまで怒っているんだ? そろそろ機嫌を直せよ」

 ここまで案内をしたおにが、いかづちにも気さくな口調で話しかけた。


 (このおにが、有名ないかづち! オーラが、違う)


 受け取った打ち出の小槌は、着ている黒の着物の帯に差し込んだ。両手をひらひらとさせて、少しおどけた雰囲気も感じ取れる。



 「そもそも、お前がこの妖界あやかしかいの秩序を乱したんだろ。

 それとも仲がいい、天狗のせいだと?」

 天狗と仲がいい? おそらくここにいる全員が疑問に感じただろう。案内役のおにを除いて。

 いかづちは雲から飛び降りて、どすんどすんと大きな音を立てながらこちらに歩いてくる。そして、太鼓のバチで案内をしたおにを指を指すように使った。




 「九尾の狐の嫁殺しか〜。懐かしいなあ。でも、天狗がやるっていうんで助けただけだ。

 あいつは、上手くできない奴だったみたいだけど! さらにこの打ち出の小槌を盗んで、好きなようにしていたみたいだし」


 暖さんは、今の話を聞いて殺気立っているようだ。それもそのはず、自分の母を殺した話だ。

 このふたりのおにのやりとりで、過去なにがあったのか聞けた。


 そもそも、このいかづち街はそのままいかづちが治めていたそうだ。そこに案内をしたおにが、突如ここは自分が代わりに治めると戦いを申し込んだ。

 取り合わなかったいかづちに腹を立てて、となりの山の天狗と手を組んだという。その天狗がこないだの大男のことだった。その大男もまた、山神を目指していた。



 天狗が山神となって、自分に味方をしてもらい一緒にいかづちを倒そうとしたようだ。そこで、 ”手伝った” ことが九尾の狐の嫁を呪うことだったそうだ。九尾の狐の嫁 ……つまりは、暖さんのお母さんのことだ。

 そこで弱った母を救うために、幼馴染の律さんを暖さんは連れて桃を取りに行ったそうだ。桃は、不死の妙薬として食べれば呪いを解呪かいじゅできるそうだ。



 そこで、大男の天狗に見つかり殺されそうなところを和さんが助けた。そうこうしているうちに、呪いによって母は亡くなってしまった。というのだ。



 その結果、妖界あやかしかいの秩序が崩れてしまい、それぞれの街の力バランスがおかしくなってしまったそうだ。



 その隙を狙って、案内役のおにがいかづちを街から追い出した。そして、いかづちの怒りが雷となって落ち続けているそうだ。

 楽しく街で案内役のおにが過ごしている時に、こっそり天狗が打ち出の小槌を盗んだというわけだった。




 (なんて自分勝手なの? そんな自分のことのために、暖さんのお母さんは殺されてしまったの?

 そして、私のことまで狙って…… そんなことで巻き込まれたなんて! 絶対に許せない!)


 私は、少し前に立っている暖さんに視線をやる。前に立っているので表情は読めないが、話を聞けば聞くだけ殺気が強くなっているように感じる。私にしてくれた様に、暖さんの手をぎゅっと握った。


 暖さんは少し驚いた顔で、私のことをみてくる。暖さんの側には、私がいると伝わるかな。そんな思いをこめて、少し強く握った。少し微笑む様な顔を見せてくれた。

 その顔を見ると、私の心の声が聞こえた様でほっとした。




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