40。おに!
灯籠でできた道を進んでいく。近くで雷が落ちて、地面は地震が起きたように震えた。雷の光で、目がチカチカして今歩いているのは暖さんのうしろをしっかりついていけてるのか不安になる。
私は、左手で桃を持って右手をふわふわと漂わせて周りを確認しようとした。指先が、暖さんの着物の裾を掠った。良かった、ちゃんと前にいる。そう感じて手を引っ込めようとした。
引っ込めかけた私の手を暖さんが、握って引いてくれる。何だか自分を導いてくれるようで、安心する。
道を進んでいくと雷が落ち着き、周りがしっかりと見える場所に抜けた。先頭を歩いていた暖さんが、ピタリと止まり私の手を離した。そして握っていた左手で、指を指した。
指で指された先には岩で出来た、おにの根城らしき建物を見つける。その建物の前には、おにのツノを持つ妖がいた。そして、私たちに気がつくと手を振ってきた。
おにの見た目は、頭から黄色のツノが二つ。ショートヘアの赤い髪をふわふわと揺らしている。
ツノ以外は、人のような見た目でよく想像される ”おに” とは少し違うようだ。
「あっれ〜。どうしたの、そんなみんなで来て」
とても明るく弾んだ声で、こちらに近づいてくる。ケラケラと笑っている。こんなに友好的な妖で、緊張の糸が切れそうになる。だめだ、いつ何が起こるか分からないと首を振ってカッと目を見開く。
「野狐のところに、忘れ物をしていかなかったか?」
暖さんは全く物怖じせず、淡々とした口調でおにの前に立って質問に答えた。おには、ふわふわと笑っている。
「忘れ物? そもそも、野狐のところに行ってないけど?」
暖さんは、首を傾げて袖にしまってあった赤の打ち出の小槌を取り出した。何も言わず、そのままおにに差し出した。おには笑みを絶やさず、差し出された打ち出の小槌を受け取った。頭上に持ってきて色々な角度にしながら、受け取った打ち出の小槌を見ている。
(行ってない? でも、その赤の打ち出の小槌はおにの持ち物って言っていたけど?)
「確かに、これは僕のだ! どこにあったの? 探してたんだよね〜」
雷の音が遠くで聞こえる。光に当たって見えたおにの笑い方は、何かを企んでいるような笑みだった。私は、大役である桃を投げるのはいつがいいのかと様子を伺うことしかできない。
私の後ろにいた花さんの手が、力の入った私の肩に手を乗せる。そこで、自分は息を止めていたことに気がついた。緊張から止めてしまっていた呼吸を、再開させる。深く吸って吐いて、肩の力を抜く。
「オレのいた、狐の村で変なことが起きたんです。そしたらその打ち出の小槌が、オレの近くに合って。
”この呪いは消せない。おにがまた訪れる。”と書かれていたんです」
琳寧さんが、そう言いながら前にでで、なぜここにきたのかを説明をしてくれた。必死な琳寧さんと対照的に、おにはずっと笑っていた。たまに声に出して。
(ずっと笑っているけど、どういう感情?)




