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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第5章。雷!
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39。灯籠!

 遠くで雷の音が聞こえてきた。そして、琳寧りんねさんが言っていたようにとても暑い。小川を渡った後から、だんだん暑さが増していき汗が滲み出てくるほどだ。



 雷の音に近づいていくほど、暑さが増していく。おそらく雷の鳴っている方角が、いかづち街があるのだろう。私の額から頬へ汗が伝う。袖で拭っていると、前を歩いていた琳寧りんねさんが涼しい顔で近づいてきた。ここまで妖界のことを教えてくれたように、いかづち街のことを教えてくれる。

 



 「奥方、雷は普段は鳴ってないんですよ。そもそもいかづち街は、いかづちというおにがいたのです。それが由来で、今はいかづち街と呼ばれています」



 「琳寧りんねさん? 普段は雷が鳴ってない、ということは。何かが起きてて雷が鳴っているのでしょうか」



 赤の打ち出の小槌が私たちの手元にある、それと関係しているのかもしれない。そしてかつて存在したいかづちというおには、いまもいるのだろうか。

 それにしても、こんなに暑いのにみんなは汗ひとつかいていない。妖は、熱に強いのかもしれない。




 「うーん。どうでしょう? なんで鳴っているのか、オレにはさっぱり。

 でも打ち出の小槌と関係があれば、今から行って解決できますよね!」


 琳寧りんねさんは、解決するそのひとりだと張り切っているようだ。私もその様子を見て、自分を鼓舞する。

 (暑さにやられている場合じゃない! 私だって、琳寧りんねさんに負けない!)

 


 今までは、街の入り口には柳の木が生えていた。いかづち街の入り口には、灯籠が並んでいる。その灯籠で道が作られているようだ。伸びる道の先には、煙が上がる大きな山が見える。空には、分厚い黒い雲がかかっている。



 「恋坡、精気が欲しい」

 暖さんは、私に手のひらを見せてくる。私は、そっと手を合わせた。今度は、以前とは違って足に力が抜けることなく何の変化も起きなかった。力を抜かれた感じを以前はそういう意味で感じたが、何もないので反対に心配になった。


 「今のでいいのですか?」



 「問題ない。あと、この桃は恋坡が持っておけ。おにの隙をついて投げろ」

 とても大切な役を任されてしまった。でも、この解呪かいじゅというのをしないと自分は不要な人間になってしまう。みんなの役に立つことをもっとしたい。

 桃は、一つしかない。失敗は許されない。と改めて気を引き締めた。



 「わかりました」

 今までのように、 ”必要とされたい” という気持ちに変化はない。でもここへ来て、自分一人ではないもっとみんなを頼ってもいい。自分らしさを出してもいい。そう思えるようになりつつあった。

 それは、みんなができないことばかりの私に対しても ”必要だ” と言ってくれるからだろう。私は、ここへ来てから変わったと自分で感じていた。


 手に置かれた桃へ落としていた目線を、周りのみんなに向ける。

 目が合っただけ、数日一緒にいただけ。ただそれだけなのに、長く一緒にいた家族よりも自分のことを理解してくれている気がする。



 「ひとりじゃない。なるべく俺から離れるな」

 暖さんが私の頭にふわりと手を乗せる。優しく撫でて、頭にさしてあるかんざしを撫でるように触って手が離れていった。すぐに離れた手に、少し寂しさを感じながら私は笑って返事をした。

 私のその反応が合図となって、いかづち街に足を踏み入れた。



 (みんなと一緒にいたら。もしかしたら、自分のことをもっと出しても受け入れてくれるかもしれない。

 それに、ここにいると不思議といま何もできなくても大丈夫。どこかで必ず、役立つことがあるはず。と思える)



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