38。雷街へ!
顔を赤くしては首を振って、それではいけないと頬を2回叩いた。そして敷布団を整えて、枕を直す。枕の横には、壊された物と同じ澄んだ青色のかんざしが置かれていた。
ハッとなって、あわてて手にとった。窓から朝日が差し込んでいて、青のガラスが朝日の金色の光を拡散させる。
軽い目眩を覚えるほどの、まばゆい光に包まれた。私はかんざしをくるくると回して、キラキラと光るのを見続けていた。
扉が開き、和さんと花さんが入ってくるまで眺めていた。ふたりが入ってくるまで、ずっと眺めてしまったとここでようやく気がついた。
「おはよう、恋坡ちゃん! ってそれ、壊れたって言ってたかんざし!」
「おはようございます! 暖さんがおそらく、直してくれたんだと思います」
花さんは大きなあくびをしていた。その隣で、和さんは手を口元に持ってきて上品に笑っていた。
ささっと支度を手伝ってもらう。着物は、こうして何度も着付けをしてもらって着慣れつつある。それでも自分で着るとうまくいかない。
ゆるく夜会巻きにして、かんざしをつけてくれた。さくっと頭にかんざしが刺さる感覚がした。朝の暖さんとのやりとりを思い出して、また頬を赤く染めた。
「良かったね、直って 。一応、言っておくけど。
瞳の色と同じかんざしって、大切な人だっていう意味が込められているんだよ。ただでさえ、かんざしを送るって……」
「花! そういうのは本人から言うのがいいのよ?」
軽く染めていた顔は、もう今はおでこまで赤くなるほどになっていた。また心臓が暴れだす。手を胸に当てて、目を閉じて深呼吸をした。それを見た二人に、笑われてしまった。私は、下を向くしかなくなった。
(笑わないでください! 私はとても真剣なんですよ)
大きく息を吐いて、目を開いて顔を上げた。おそらくまだ、赤いままだろう。二人は笑って、私の背中をぽんっと叩いた。
自分に都合の良いように、解釈をしているだけ。とそう言い聞かせる。
男性陣と合流をして、雷街へ歩いていく。道中に琳寧さんにも、花さんから受けたかんざしの話をされた。
ここの妖界では、有名な話らしい。 ”自意識過剰だ、自分のことを心から必要だと思う人はいない” と自分に言い聞かせた。こんな必要だと言う言葉の裏に何があるかわからないから。
そうは言っても、もうすでに心のどこかで ”自分のことを受け入れてくれている” ”言葉どおり必要としてくれているのでは?” そうも思っている。
途中綺麗な小川が流れているところで、休憩を挟んだ。天狗が作ってくれた、おにぎりを頬張る。
シンプルな梅おにぎりだ。梅だが、酸味がなく甘いものだった。私の隣で頬張っていた、律さんはもっと甘くていいのに。と言っていた。
そして、種をぴゅっと飛ばした。驚いて律さんを見る。そうすると、奥にいた花さんたちも同じことをした。
「種を土に還すんだ! そうすると、また梅の木がなって大きくなって…… そうやって巡っているんだよ」
律さんの説明を受けて、私も同じようにぴゅっと飛ばしてみた。人間界では、はしたなくて絶対にしないことだったから少し悪いことをしている気分になった。
小川には、橋がなかった。どう渡っていくのかと考えていると琳寧さんが、近くの岩を運んで渡れるようにしてくれた。それでも岩だ。妖たちは、脚力があるのか上手に渡っていく。
(いや、絶対無理でしょ。飛んでも着地できないし。そもそも、人間には岩を使って小川を渡る発想にはならないし)
飛ぶしかないなら飛ぶか。と悩んでいると、暖さんが引き返してきた。そして、私を小脇で担いで岩に飛び乗り小川を渡った。みんなの元に着くと、そっと下ろしてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
暖さんは相変わらず、頷くだけだった。助けてくれたのに暖さんは、律さんから小言をなぜか言われていた。それに対して、暖さんはちらっと一瞥するだけだった。
「オレ、奥方のことを考えれてませんでした! すみません」
「えっ、いえ! みなさんのように運動神経良くないんです」
琳寧さんに気を使わせてしまった。頑張ってでも飛べば、暖さんは小言を言われず済んだのかなと少し反省をする。
(私も妖のようになれたらいいのに)




