37。布団の間!?
そうして、各自の部屋に戻った。一式の敷布団が敷かれていた。桃色の花柄が、田舎のおばあちゃんの家を思い出させる。今はもう亡き祖父母は、私のことを何度も ”かわいい” とたくさんの愛をくれた。私に愛を与えてくれた、唯一の存在だった。小学生の頃には二人とも他界している。
懐かしい思いを思い出しながら、布団の間に身体を滑り込ませる。
歩きにくい桐の下駄で歩き、慣れない舞踊をして挙げ句の果てに攫われて。この妖界にきて、本当にたくさんの出来事に巻き込まれた。初日からあっちこっちへ歩き、ゆっくり寝かせてもらったのに疲れはなかなか抜けていないようだ。
布団に包まれると、夢に包み込まれる。
朝日が眩しくて、目は開けないが頭だけで起きる。今日の夢は、キラキラとした星の上を歩くよく分からないものだった。夢というのは、よく分からないものだ。
そのよく分からないものが実際に、液体になる様を見ている。しかも、とても綺麗な液体なのだ。今見た夢が、液体になったら何色だろうか? と考えてしまう。きっとしばらくは、夢を見たら考えてしまうだろう。
(ん? 誰かいる。うわぁ。すごく見られてる。このまま私、寝たふり続けるべき?)
今の夢が何色になるのか、そんなくだらないことを考えていたら人の気配を感じた。
私の横で横たわっているように感じる。私は右を下にしていて、隣にいる相手は私の方を向いているようだ。
うっすらと目を開けると、手が伸びてきてもう一度目を固く閉じる。伸びてきた手は、私の髪をすく。サラサラと指の隙間を落ちるとまた掬い取られた。
私は、この状況で寝たふりを突き通せなくなり声をかける事にした。
「あ、あのう。そんなに見られると…… 穴があきそうです」
「なんだ、起きていたのか」
優しい低音が、心をくすぐる。目を開けると、髪を下ろし少しはだけたままの暖さんがいた。普段はきっちり襟を正してきているので、リラックスしている姿は初めて見る。私は言葉を紡げず、口を結ぶ。目から音がするほど、瞬きをして目で訴える。
ふはっと、暖さんが笑った。
”ああ、好きだ” その言葉が頭をよぎった。息を飲み、呼吸を止める。唇を震わせ、絞り出す様に声を出す。
「……起きてました!」
「そうか。問題ない、穴なんて開かないから」
私は、顔が爆発しそうになって布団を頭から被った。暖さんの笑った顔が、脳裏に焼きついて離れない。心臓が大きく脈を打つ。自分の耳元で大きく音を鳴らしている。自分のからだは、心臓だけでできているかのようになり深呼吸をした。そして暖さんに届くか届かないかわからない、弱い声でなんとか答えた。
「もうすでに、私は穴だらけです」
暖さんが、立ち上がる音がする。そして、ゆっくりと歩いていき部屋の扉を開けた。
「もうすぐ、二人が来るから手伝ってもらえばいい」
私の返事を待たず、扉が少し大きな音を立てて閉められた。しばらく私は、布団の中から出れずいた。心臓に手を当てて、鎮まれと言い聞かせた。一向に落ち着かず、布団の中で息苦しくなって外に出た。
(一瞬、頭の中でなんか文字が流れたけど。ま、まだ、分からないよね!)
頭をブンブンと、横に振って忘れようとした。敷布団を整えて、伸びをして立ち上がる。顔を赤くしては、首を振ってをなん度も繰り返した。




