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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第4章。山神様!?
33/84

33。山神!?

 天狗は、翼を燃やされて飛べなくなったのか下に降りてきた。必死にうちわを使って、翼の火を消そうとしている。

 むしろ、うちわで仰いでしまっていて大きくなっている。焦りの滲む声が聞こえてくる。



 「わしは、山神だぞ!」



 「お前は、そもそも山神ではない。なれもしない」



 「あの時、おぬしの母をわしに渡していれば。こんなことにはならんかった」



 暖さんは返事をせず、長い髪を結っていた髪紐を解いた。そして、髪紐を天狗に投げつける。髪紐は、自我を持っているようにふよふよと飛び天狗の元に辿り着いた。


 「母は、もういない。恋坡も渡さない」




 そして髪紐が、天狗に巻き付いた。腕と足をぎゅうぎゅうに締め上げている。暖さんは、左手を指揮者が音を止めるように握りしめると雨が降り出した。



 私のことを離して、左袖から自鳴琴時計じめいきんどけいを取り出した。暖さんは、申し訳なさそうな表情を見せる。


 「……恋坡、悪いがまたお願いできるか?」




 「はい! もちろんです!」


 私は、自鳴琴時計じめいきんどけいを受け取った。手の中でキラキラと輝く。私は、できることが少ないので頼ってもらえることが嬉しかった。



 そして、以前のときと同じように音楽が頭の中で鳴り響く。



 「〜時が紡いだ音 忘れないで。

 愛の色は いま 輝き出す

 巡り巡ってあなたのところへ。


 時計の針の音 刻まれる時

 混ざり合った色が 心を溶かす温もり〜」




 以前唄った曲をうたう。唄い終わると目の前にいた天狗は、白目を剥いて倒れた。




 「暖さん。助けに来てくれてありがとうございました! 天狗は、悪い妖なんですか?」




 「普段は、酒を作って遊郭に売り出している。元々、山神になり長が桃畑を守ってきた一族だ」



 やはり、私の知っている天狗そのものは存在していたらしい。天狗のお酒は、美味しいのだと聞いたこともあった。




 「律たちが、天狗の山にいる。そっちに行く」

 そしてどうやら、今いるここは天狗の山ではないようで以前のように時計の絵を書いてその中央に立つ。



 目の前には、かやぶき屋根の家々が現れる。大男の天狗と同じ翼の生えた妖が、たくさんいた。

 大男ほどではないが、みな高身長だ。



 「恋坡ちゃん! 大丈夫だった?」

 律さんが、暖さんと私を見つけて駆け寄ってきた。律さんの後ろには、琳寧さんと花さん、和さんもいた。私の無事を確認すると、ほっとした顔を向けられた。


 よぼよぼと杖をついた、おじいさん天狗がこちらに近寄ってきた。そして、一緒に連れてきた大男の天狗からうちわを取り上げた。私と暖さんの姿を確認するように、上から下まで見てきた。


 「申し訳なかったねぇ。雨が降ったのかい? 着替えを用意させよう」


 

 山の天狗たちは、皆優しくしてくれた。おじいさん天狗の言葉どおり、着替えを用意してくれて着付けもしてくれた。貸してくれた着物は、和さんの着物よりも少しざらつきを感じる。花さんが言っていた、和さんの着物は上等なものだといっていた意味が分かった。



 そして、冷えてしまうと大変だと温かいお茶を出してくれた。やはり、以前人間界の物だと出してくれたお茶とは違い甘いお茶だった。紅茶に近い風味を感じる。ただ緑茶の色合いなので、少し不思議な感じがする。



 (ここの山の天狗たちは、私の読んでいた小説に出てくる優しい妖だ)




 「恋坡ちゃん、怖かったよね。私たちが一緒にいたのに! それより、私のせいでこんなことになっちゃったんだけど」



 着替えも終わり、和さんにペタペタお触られて怪我がないか再度確認をされた。ずっと私を触る和さんを、花さんが止めてくれた。



 「暖さんに聞いたよ。桃の実を恋坡が、取ってきてくれたって。流石だね」



 (桃の木にたどり着いたのも運が良かっただけで。私は何もしてなくて、暖さんが来てくれなかったら…… って考えると恐ろしい)



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