21。和さん!?
”今度は私に選ばせてね” と言われたので、また和さんの着せ替え人形になる覚悟でいた。今度はどれほどの数の着物を着せられるのかと、ドキドキとしていた。
しかし、もうすでに決まっていたようですぐに着付けの部屋に案内された。大きな桐のタンスが並んでいる。着物の香りと桐のタンスの香りが漂う部屋だ。
「恋坡ちゃんはこれね! 花は、こっち!
天空街で見世をやってる、知り合いがいてね」
和さんは、タンスの中から帯を出しながら教えてくれた。
「知り合いですか?」
「昔から私のお店で着物を買ってくれる子なの。
その子がいまは、見世のおかあさんなの。」
「見世? ってなんですか?」
「んーと、芸妓さんとか遊女とかが住み込みで働いてるところかな!
そこを切り盛りしてる妖のことを、おかあさんって言うのよ!」
「もともと芸妓だった妖が、なることが多いんだよ」
「ということは? もう引退されたってことですね」
「ああ…… 恋坡、勘違いしていそうだから言うけど。
和が私たちの中で、一番年上だよ?
この妖界で知らないやつはいないと思うぐらい、顔も広いんだよ。色んな着物の店があるけど、一番仕立てがいいから」
「んんん!? そうなんですか!
てっきり、暖さんと呼んでいたし……」
花さんが私の肩に両手を置いて、深く頷いた。それは、まるで私の気持ちを理解してくれたようだった。
「なによう、失礼な! 年寄り扱い?
恋坡ちゃんまで、花の味方するの?」
「あ、や。あの、妖の普通の年齢もわかりませんし。年寄りには、見えませんから!
和さんは良きお母さんみたいだなって、思ってました!」
「おお、優しいねえ」
ハハハっと花さんは笑った。優しいと言われたが、見た目が本当にお姉さん並なのだ。私に対しての溢れ出る母性から、私の母親ならと思っているだけ。
「恋坡ちゃんのお母さんなら、喜んでなるよ!
そもそも…… 花だけだからね? そんなこと言うの!」
「はいはい。んで、これを着ればいいのね?」
「そう、遊郭を歩いててもそれとなく見えるでしょ?」
「あ、あの!
私、三味線とか舞踊とかなにもできませんよ?
問題ないでしょうか?」
「そうなの? なにかできない?
笛とか……吹けない?」
(ええ、無理ですね。リコーダーもピーピー変な音しか鳴らなかったから。
音楽の技能テストは、いつも再試験を受けています。
……でも、あの時の唄を歌った時は気持ちよく歌えたような?)
うんうんと考えている私を、二人は不思議そうに顔を見合わせていた。
その表情と反応からして、なにか楽器ができるのが普通なようだ。妖たちは、長く生きているから身につくのか。それでもある程度、素質と言うのがあると思われるが。
”なにかできること” を頭を抱えて考えた。
ーーやはり、考えうるものは他人に披露できるものではなかった。
「笛も吹けないし、できるものがなさそうです。
お力になるどころか、足手纏いかもしれません」
(楽しそう!
と言うだけで、やる気満々だった私が恥ずかしい。)
「うーん、花? あなた、あれ得意でしょ? やってくれる?」
「いいけど。恋坡がいいなら」
顎に手を当てて、少し悩むように花さんは言った。私が良いならと言うが、私の答えは一択。
「なんとかできるものなら、お願いします!」
「うん、わかった。とりあえず、着付けしてもらってね!」
私の揺るぎない回答を聞いて、笑って返事を返してくれる。花さんは、自分の着替えをはじめた。
私の着付けは、和さんが。化粧は、花さんがすると道具を広げていた。
「ちょっとびっくりする化粧かもしれないけど。
遊郭に入るから、ちょっと濃いめだからね」
「はい! お願いします!」




