2。夢のお代?
ニコニコと笑いかけてくれる律さんを見て、何か忘れてるような? と考えた。
「……あ、そういえば。お代? でしたっけ?」
ハッとした顔で律さんは立ち上がり裏に何かをとりに行った。
「あ! そうそう〜忘れてた。この瓶がさっき恋坡ちゃんが見てた夢」
戻ってきた律さんの手には、先ほど上の棚に並んでいた綺麗な小瓶が収まっている。綺麗な緑色の液体がたっぷり入っている。
律さんが、その瓶をチャポンッと振って私の座っていた席の前に置いた。上の棚に並んでいるキラキラ光った液体は、夢だそうだ。そして、私の目の前に置かれた瓶の中身は、不思議なことに私の夢。
私の夢だと言われても、ただの色水の様にも見える。
綺麗にキラキラした、緑色の夢の液体に目を輝かせることしかできない。じっと目の前に置かれた小瓶に目を落とす。突如、律さんはこの夢の液体の使い方を教えてくれた。
「そう。見たい夢がある時は、この液体を飲むんだよ〜! そうすると、その夢を見ることができる。
人って珍しいからね、人の見た夢は人気なんだよ〜」
「……そう、ですか」
(そもそも、どんな夢だったか覚えてないし。その夢を誰かが見たいってなるのかな? うーん。なんだかむず痒い気が……)
「そうしたら、夢のお代をお支払いするね? うーん、そうだなぁ」
律さんは少し考える素振りを見せ、こほんっと咳払いをして話を始める。
先ほどののんびりとした喋り方とは打って変わって急に饒舌になった。表情付きで話をする様は、落語家のようだ。
「昨日、お茶を沸かして寝たんだ。朝起きて飲もうとしたら……なんと、水だったんだ! お茶の葉を入れた気でいたんだけど…… って、あれ? あまり面白くない?」
(はい? なんの話?)
「あっ、えと。笑うべき、でしたか?」
「うーん。面白いと思ったんだけど……。そしたら! 買い物に出かけようとしたんだ。 何を買うかメモをしておいたのに、そのメモを忘れて来てね。 必要でないものを買って帰ってきたんだ。
クククッ……面白くない?」
「うーん? 面白いというより、失敗談? でしょうか?」
「そう!でも、小さい失敗って笑えるでしょ? 他人の不幸は蜜の味ってやつ? ……それはちょっと違う?
とりあえず、この夢をもらうお代として恋坡ちゃんの笑顔になってもらいます〜!
だから、面白い話をしているんだけど」
(笑顔がお金になるの? 笑わせる代わりに夢をくださいってこと? ちょっとよくわからないけど……でも確かに。こんな知らないところで目が覚めて、不安しかなくて……笑うってこと、忘れてたかも。にしても、そんな失敗話ばかり……)
「ふふふふっ」
「わ! 恋坡ちゃん、笑ってくれた〜。よかったよ〜! 人間の笑うツボって、違うのかな? 何が面白かった?」
「話は正直、面白いかは分かりませんが…… ふふふっ。その必死に笑わせようとしてるので、つい!」
「それは、どうなんだ〜? まあいいか! この夢は僕がもらうね〜」
律さんはそういうと、緑色の瓶が並ぶ棚に私の夢と言った瓶を並べた。
その背中に私は声をかけた。
「はいっ! じゃあ、私はこれで!」
ガタッと立ち上がって、律さんに手を振って扉をあけて出る。
カランカランッと扉を開けると優しくベルが鳴った。律さんの声が聞こえたような気がした。
(ん? なんかまだあった? ……まあいっか?)