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華燭のまつり  作者: 白崎なな
第2章。私は必要ですか?
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19。おに?

 その日は暖さんのお家で、ゆっくり寝て過ごさせてもらった。部屋について目を瞑ると、直ぐにとぷんっと夢の中に落ちた。



 「私ね、幸せだったの。だから、あの子にもって思うのよ」




 「……」

 声が出せない。耳元で声が聞こえている。だけど、起き上がることもできない。

 いわゆる金縛りのような感覚。



 それとも、からだ全身で落ち切った夢の中?

 匂いも全てがリアルだった夢を知っているから、夢である可能性もある。夢の中なら、その声を聞いているだけでいい。そう思い、動かそうとしていた体の力を抜く。



 「音を聴いて。心で感じて」

 そう言い残して、耳元にいたであろう人の気配が消えた。とても優しい女性の声だった。

 



 暫くして、目が覚めた。体を起こす。手を握って開いてを繰り返す。力をたくさん入れなくとも、普通に動かせた。


 (あの人は、誰だったんだろう。どこか懐かしい感じもした。変な体験だったなぁ)



 神様の頭の中に流れてくる感覚とは違い、耳元で話される感覚。だけど、体が動かない。本当に不思議な体験だった。いや、ここに来てから変な体験を嫌というほど体験をしている。



 わたしは、2階屋根裏部屋を借りていた。和さんがしてくれたように自分の身支度を整える。着物を自分で着るのははじめてで、試行錯誤する。

 下へ降りていくと、琳寧りんねさんがひとりお茶を飲んでいた。琳寧さんが私に気がついてあいさつをされた。



 「奥方は、ゆっくりできました?」





 「はい。おかげさまで。あとその奥方、やめて欲しいです。

 恋坡と呼んでください!」



 「おそれ多いです! でも、奥方のお願いなら!

 それなら、恋坡さんと呼びます!」



 「そうしてください。奥方呼び、落ち着かないので。

 ……それより、暖さんたちは? どこへ?」


 周りを、キョロキョロと見てもいない。リビングとキッチンがひとつに繋がっていた。掛け時計がカチカチと秒針の針が音を立てている。

 静かな部屋に、琳寧さんだけがいた。



 「子供達を街へ送りに行きました。

 恋坡さんが起きたら、一緒に来るようにと言われました!」



 「そうでしたか。それなら、急いでいきましょう!」


 (暖さん、寝てないんじゃ? 妖は睡眠なくとも平気なのかな。野狐たちも元気いっぱいだったからなあ。

 いやでも、街に行く日は二度寝してなかった?

 寝溜めができるのかな。羨ましい)



 街に行くが、どこにいるかまだはわからなかった。なので、先ずはこの "神かくし" について話をしてくれた、お豆腐屋さんに向かった。

 店主には、何度も何度も頭を下げられてお礼を言われた。


 「私は、何もしてないですから。みんなが無事で何よりです!」



 「まさか、野狐のところだとは……」



 「なぜあの村は、竹林の奥にあるのです?」

 (同じ狐だし、一緒にこの街で生活すれば良いのに。わざわざあんな辺鄙へんぴなところに住む必要なんて、無さそうじゃない?)



 「昔はね、試験があったんです。それに落ちると "野狐" と言われて、ここの街で生活ができかったの」


 「でも、昔はって今言ってましたよね?」



 「試験ももう無いし、差別も無いんです。でも、好きで住んでいるらしいんです。

 今は、悪いことをする狐の妖を "野狐" と呼んでいます。

 昔と同じ言葉ですけど、意味合いが変わっていまして」



 「だから、今回の一件に対して暖さんは野狐って言ってたんですね!」



 「ええ、そうです。

 そんなことより! 本当に助けてくれて、ありがとうございました!

 あ、暖さんは、和さんのお店にいますよ! また、しっかりお礼をさせてくださいね!」



 手を振ってお豆腐屋さんを後にする。ちゃんと子供達は、家に帰ったようで一安心だ。和さんのお店に向かう。



 私は、和さんのお店ののれんを潜って中に入った。

 暖さん、律さん、花さんの3人が揃っていた。


 「おにの居るところに行く」

 のれんなので扉が開く音のように、声をかけないと気づかれない。暖さんが話し始めたことにより、おにのはなしになった。


 「暖、おにのこと知ってるの?」



 「知らん。もう1000年以上戦っていないはずだ」



 「何も知らないのに、行っていいの? 危ないでしょ〜?」




 「あ、あの!」

 


 まったく気が付いてもらえず、私は声をかける。

 3人は入り口にいた、私と琳寧りんねさんのことを見る。暖さんに、自分の隣の座布団をトントンと叩かれた。

(ここに座れ。ね)



 隣に座ると、和さんは苦笑しながらお茶を出してくれた。


 「あなたもこっちに座って。

 恋坡ちゃん、このお茶は人間界のだからきっと舌にあうと思うんだけど」



 「わざわざ、ありがとうございます!」

 (うん、私の知ってる緑茶だ。この味……ほっとする〜!)

 私の反応を見て、和さんは嬉しそうな顔をした。妖界あやかしかいにも人間界の物があるのか。と考える。


  「やっぱり、おにの所へ行くんですね?」

 私の隣に座った琳寧さんが、私を挟んで暖さんに話しかけた。


 「これを返しにいかないと」



 「打ち出の小槌のことですよね?」


 暖さんは、頷いて輪の中心にことんと置いた。

 皆んなが見る、中心に置かれている打ち出の小槌。琳寧さんから預かっていた、おにの持ち物。 "赤の打ち出の小槌" だった。




 「この打ち出の小槌、色以外に大黒天様の物と何が違うんでしょう?」



 「一緒だよ! なんでも願いが叶うんだよ! 

 でも、持ち主の願い。っていうのが違いかな〜?」

 律さんが、のんびりとした話し方で教えてくれた。持ち主の願いの違い、ということは。



 「悪い人が悪いことに使ったり、なんてこともあるんですね。それは、問題ですね。」




 『ああ』

 暖さんが頷いて答える。


 「でも、返しに行くんですか? 悪いことに使われてしまいませんか?」


 「打ち出の小槌をというより、この紙を」

 昨日、見た打ち出の小槌についている紙をひらひらとさせた。




 「ねえ、おにを倒すには何が効果的だと思う〜?」



 「燃やす」



 「刺すとかでしょうか?」



 「打ち出の小槌を使うというのはどうかな?」



 暖さん、琳寧さん、花さんの順に戦い方について案を出した。

 


 「打ち出の小槌は、持ち主でないと使えない」

 だから、これを持っていても意味がないってことか。と私は納得した。持ち主が悪いことに使おうとすれば、使える。この赤の打ち出の小槌は、持っていても意味ないがおにが持っていると危険ということだ。




 「えっと、人間界に節分という日があって。おにをやっつけるのに、豆まきをしたり柊とイワシの頭を玄関先に置いたりしますよ!」




 「豆でおには倒せるの〜?」

 はじめて聞いたと、律さんは言う。人間たちの風習で、豆まきをしたり恵方巻きを食べたりする。それが普通なことだと思っていた。

 でも、こちらの妖が当たり前なことは私にとっては驚き。といったように、この話は妖にとって驚きなのだろう。


 「そういう風習の日があるんです。

 本当かどうか、さだかではありません。」


 (確かに、豆まきってそんなのでおに退治が可能なの?)


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― 新着の感想 ―
[良い点] オニとのバトル。 これは苦戦の予感。 後、豆まきがオニとのバトルで絡みそう。 面白かったので、ポイント評価させて頂きました
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