13。年齢?
紺色ののれんをくぐり、私は和さんに声をかける。
「和さん、預かって貰ってた私の服を取りにきました!」
『あらあら、恋坡ちゃん! 早かったのね!
今、女子会中なの。こっち座ってるのが、女郎蜘蛛の花よ。』
和さんの前に座ってお茶を飲んでいた、黒髪のショートカットの女性が私を値踏みするように見る。
(うわぁ……女が女を見る目って怖いんだよね。)
頭の上から足の先までじっくりと穴ができそうなぐらい見られた。
『ふぅん、この子がさっき話してた……』
(わ、私がなんですか! 花さん!!)
吊り目の黒い瞳が無くなるような満面の笑みを浮かべた。
(むしろその笑顔が怖いです……。)
『いいんじゃない?』
「ぅえ!?」
驚きのあたり、変な声で返事をしてしまった。何を言われるのかと身構えていただけに、拍子抜けをした。
『ふふふ、ははは。ふふふ!』
そのやりとりを見て和さんは、お腹を抱えて笑っている。
『和? なんで笑っているの?
いい子なんじゃないの?』
『ふふふっ、いい子なのよ〜。私の子にしたいぐらいにね! ふふふふっ』
『じゃあ何に笑ってるの?』
『だって〜、恋坡ちゃんのさっき表情がっ。
だめ〜思い出したら、笑いがっ! ははは、ふふっ』
(いや、だってあの目は誰でもそうなりますよ? 本当に私穴があいたかもしれないって思いましたよ?
そして、笑いすぎです。和さん。)
『あ〜……。和のことは置いておいて、今から恋坡ちゃんを街の案内に連れて行こうと思ってて〜。
二人もどうかな? って思って来たんだけど。』
隣でにっこりと見守っていた律さんが声をかけた。
『えっ!
行きたい! どこから行こうね!』
『いつものことながら、和のその切り替えが怖いよ。』
花さんは、じとっとした表情で見ている。
『ふふふっ。切り替えが早いのは良いことです〜!
さ! 行こう行こう!』
和さんは、全く気にせずパッと立ち上がり小上がりの部屋から降りてきた。
私の体をぐるりと反対に回して、背中をグイグイと押されてお店の外にでる。
(本当、どの妖もマイペースだなぁ〜。)
『最近流行ってるお店は〜?
うーん。あんみつ屋さんかな!』
『あぁ、あそこか。あの店なら、人間でも美味しく食べられるんじゃないかな?』
うんうんと頷き、にんまりと花さんも笑っていた。
(そういえば、私ここに来て何も食べてないや……)
そんなことを考えると急にお腹が空く。ぐぅ〜〜っと大きな音が鳴った。鳴り響いたに近いかもしれない。
「あっ! あっ! あの…… すみません!」
恥ずかしくなり、両手で顔を隠した。
『恋坡ちゃん、ここに来てから何も食べてなかったもんねぇ。僕たち妖は二日に一回とかしか食事を取らないから、忘れてたよ〜』
律さんは表情は見えないが、声色からしてとても申し訳なさそうだ。
『え! 何も食べてないの!?
それは、あんみつより豆腐屋さんでしっかりお食事にするのはどう?』
「あぁ〜、お豆腐〜!」
恥ずかしさのあまり、顔を覆ったまま答えた。
『よし、豆腐屋さんにしましょ!
さ! こっちこっち!』
(ダメだ。考えれば考えるだけ、お腹が減る……!
よだれも出てくる! 相当空腹だよね、だって食べてないもん……
よだれなんて垂らしたら、もうここで生きていけない。)
お豆腐屋さんの席着いて、和さんが一番好きなお料理を出してもらった。
(豆腐田楽、野菜のおかず…… それと、麦ごはんか。
良かった、普通のご飯だぁ。)
「いただきます。」
(ん?甘い。甘すぎる。なんだろ?
塩と砂糖間違えた並の甘さ……。
お豆腐、なんだよね? 麦ごはん……もどうして甘いの?
ふりかけ代わりに、砂糖でもかかってる?)
『やっぱりこの味よね〜』
『うんうん、ここの美味しいよね』
『甘いのがやっぱりいいんだよね〜』
と、3人は美味しいと頷いて食べている。
(うん? あれ? 私の味覚がおかしいのかな?)
『あれ? あんまりだった? 私ここが一番美味しいかなって思ったんだけど……』
「あ! 美味しいです! ……ちょっと甘くてびっくりしただけです!」
『あ、あぁ…… そういえばそうだったね。
和、妖の味覚の物は人間にはちょっと甘すぎるんだよ。』
「妖と味覚が違うんですか? 花さん。」
『うん。』
「人間のことを知ってるんですね?」
『私、人間界にしばらくいたからね。』
豆腐田楽のくしをフリフリと軽く振って、少し得意げな顔で話してくれた。
(妖も人間界にくることがあるんだ。
でも確かに、私がこちらに居るように反対だってあり得るんだもんね。)
『いつの話してるのよ〜』
『100年?200年?前?』
「ひゃく!? にひゃっ…!?」
びっくりしてお箸をカランカランと落としてしまった。お店の人が慌てて、新しいのを持って来てくれた。
(え? 聞き間違いじゃないよね? 見た目だけなら、お姉さんぐらいな感じだよ?
……あ、そういえば。妖って何百年単位で生きてるんだっけ?)
『びっくりしちゃった? 大丈夫?』
「すみません。び、びっくりしました……」
『でも、人間界にいても妖だってばれたことないよ?』
「いや、そこじゃなくて……それもですけど!
みなさん、もしかして200年以上生きているんですか?」
『あ、そこ? 皆んなそんなもんだよ。
暖さんはたしか、500年ぐらいだったはず! 九尾ってそのぐらいでなるんだもんね?』
「ご!ごひゃくっ、ねんっ……」
『恋坡ちゃん……? あなた、いくつ?』
「16です……」
3人にギョッとした顔で覗き込まれた。
『生まれたて!』
(違います。産まれてもう16年経ちました。
生まれたてって……まだヨチヨチ歩きの子供とかに言うんですよ? 人間では。)
「人間、ですので……」
『でも、暖と一緒になれば寿命伸びるから〜。妖ほどではないにしろ、ね!』
「それは、嬉しいことなのでしょうか?」
『長く生きるから、飽きは早いかも? でも、その代わり! たっくさん、いろんなことが出来るよ!
妖界は、楽しいことで溢れてるよ!』