10。夢の色?
律さんがいる部屋に案内された。ここに来てから、勝手に夢を取りだされ、着せ替え人形にされ……。
さらには、神様に会いどんどん私を嫁に迎え入れる話が進んでいるし。それも私の合意なく勝手に。
いろんなことを考えすぎて、もう自分の体力に限界が来ていた。
(さっき泣いたし、さらに体力消耗したんだよね。もうだいぶ、疲れたなぁ)
「あれあれ? 恋坡ちゃん、泣いたの?」
「律さまっ!」
黒狐が代わりに律さんにこれ以上聞かないようにと首を振って、阻止をしてくれた。ひとり慌ててる黒狐は、本当に可愛い。
「恋坡。悪いが、眠って見せてくれ」
(でた。夢を取り出されるやつですか。でも、もう横になったら一瞬で寝れそう)
律さんは、嫌そうな顔をした。私はその顔をみて、少し嫌な気配を感じとる。
暖さんは、その律さんの顔をみてなぜ嫌な表情をしているのかわからないようだった。
ふたりは、じっと見てなにか目線で話をしているようだった。そして、律さんが困ったような顔になり私を見た。
「いやな予感しかしないのですが。気のせいでしょうか?」
「う〜ん……、ごめんね〜」
律さんのその言葉を最後に私は、眠ってしまった。
ーーああ、これは夢のなかだ。なぜか、夢だと理解している。
でも、ほっぺたをぐいっとつまむと痛みがある。香りも感じる。
(これは、夢? なんだよね。それともさっきまでのが夢の中のはなし?)
ピピピッと私のケータイが鳴る。いつも起きる時間の6時のアラームだった。
いつもの時間、いつもの私のベットの上。いつもとなんら変わらないそんな風景。
(やっぱり、妖界にいたの。あれは夢だったのね。
どうりで現実味を感じないわけだわ)
うんうんと自分に言い聞かせ支度をしていく。
一階の和室が私の部屋だった。直ぐ出て、キッチンとリビングだ。
今日は土曜日、高校はお休み。
学校の代わりに家の手伝いがある。
私の父と母は、開業医の歯科医師だ。土曜日には、姉と私は手伝いをする。
父も母もカルテの整理や、学会の準備と日々追われていた。そのため私が家族の朝食、お弁当、夕飯を担当していた。
姉は、自分の勉強で忙しいのだと私に家事は押し付けられている状況だ。
私に拒否権は無いから、やるしかない。この家では、私の意見は誰も聞く耳も持たない。
(姉は、天才肌の人間なんだから…… 私の方が勉強やらなきゃなのに!)
土曜日は、患者さん数が多いので9時に診療開始する。そのため土曜の朝は早く食べられる、おにぎりやトーストにしている。
いつものように、私はキッチンに立つ。サッとエプロンをつけた。
毎日のことで慣れたように、フライパンを取り出し卵を割る。ささっとトーストとスクランブルエッグを作って朝ごはんの準備をした。
そうこうしているうちに、2階から母と父が降りてきた。
おはようございます」
「おはよう」
そう言って母と父は食べ始めた。それを確認してから私も席に着く。
「こないだのテストの結果、あまり良くないんじゃないの?」
「す、すみません……」
父は、パソコンの画面を見つめたまま答える。
「高校2年生で、中弛みしてるんじゃないか?姉は要領よくやれて、いつも完璧にこなせるのに。妹は使い物にならん。……お前に価値はあるのか?」
「……すみません」
2人の顔を見ていられなくなって、下を向いた。
「ねえ、あなた。そんなことより、この患者さんなんだけど……。抜歯予定になってるけど、なるべく残したいし。根治をやってみようと思うんだけど……」
「CT撮って確認して見て。」
「分かったわ。」
2人は、私が同じ席に座っているのにいないように扱う。いつも仕事の話をしていて、私なんか蚊帳の外。仕事が仕事だからしょうがないが、何をはなしているのかさえ全くわからない。それがさらに、私をここの家族の枠から切り取られているように感じる。
今は、まだ姉がいないので派父と母だけでの会話だ。でも、姉は医学部へ進んでおり勉強をしているからか2人の会話にも混ざることがある。
姉が加わるとより、私という存在はかき消されるようだった。
私は、父と母のように医師になって継がなくてはいけない存在なのに。
……とにかくできが悪い。
反対に私の姉は、どんなことでも器用に完璧にこなすことができる。
県内トップの雅女子学園を卒業し、そのままエレベーター式で大学に入学している。
女子校なのに、共学校を抑えて県内トップの学校だった。
それだけに、 "あの茶色のブレザーは雅女子、エリートさん" と制服を見ただけで言われるほど有名高校だった。
姉はその高校で主席入学、主席卒業生だ。誰から見ても天才。みな口を揃えて "医者の娘はやはり凄い"。
私は、女子校ランキング2位の蓮宮女子高校生の2年生だ。
父には "女子校だけのランキングで県内2位の高校に入学なんて、恥ずかしい。"
と言われ母には"主席入学でもないなんて。どこからやり直せば良いのか……" と。
とにかく私は、この家で出来損ないなのだ。
旅行の時も、3人で出かけている間もひとり机に向かった。そのおかげでこの蓮宮女子高校に受かった。
私としては、努力してやっと勝ち取った!
と言う気分でいたが……どうやら家族からすると違うらしい。
高校に入学後も、生徒会へ最速の高校一年生から推薦を受け書記としてやっていた。
それも、母や父に認めて欲しかったから。
自分がやれることなら、全てやろうとした。
そういう家庭で育ったので、思うことはなかなか言えず。 "自分なんか" と思うようになってしまっていた。
両親の経営している歯科医院で土曜日はお手伝いに行く度に働くスタッフたちの声が聞こえてくる。
"お姉さんは、しっかり者でなんでもこなせるけど……。妹さんは、ちょっとねぇ" と陰で話している。
両親だけではなく、他の人もそう言うということはそうなのだろうと思い込んでいた。
私なんて必要ない存在なのだ。と。