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第6話 レザ、魔王城に到着

 旅の道中で数々の魔族と対峙してきた勇者レザ。しかし彼はとうとう魔族を1匹も手にかけず魔王の城へとたどり着く。


「お世話になっております。勇者のレザです。魔王様にご用が会って参りました」


 どす黒く染まった空。さらに雷鳴まで轟いている中、レザは漆黒に染められた巨大な魔王城の守衛を務めているハーピーに向かって、丁寧にお辞儀をしてこう挨拶する。


「そう言えば名刺が欲しいですね。今度どこかで作ってもらいましょうか」


 たとえ勇者レザとして転生しても、彼はどこまでも営業マンだったのだ。


「お前。噂には聞いているぞ。さては不殺の勇者・レザだな?あっさりとここまで来るだなんてよほどの実力の持ち主だろう。いざ勝負!アタシには油断させる作戦は効かないよ!」


「そちらの翼、とても綺麗ですよね。あ、それと爪も丁寧に研がれていて随分と鋭いですね!その形を保つのに苦労しているでしょう?」


「え……分かる?やっとこれの大変さに気づいてくれる人が出てきた……。城の仲間も全然興味持ってくれなくて……」


 彼はおだてるのも上手。どこまでも営業マンだからだ。


 そしてレザは魔王城を突き進んでいく。


「おい!例の勇者が魔王城に侵入してきたぞ!捕らえろ!」


「逃がすな!追え!ここで殺しても構わん!」


 魔族達はそれぞれが懸命に彼のことを止めようと試みるがそれを果たすことはできない。このレザの姿、それはまさに快進撃。


 なんせその得意の営業トークは腰にある剣よりも強いからだ。


「それで聞いてよ!ウチの彼氏のエルフ、他の女にも手を出してたみたいなの!ハーピーでしょ、サキュバスでしょ、おまけにフェニックスも!嫌になっちゃう!」


「コカトリスというのも色々と大変なのですね。それにしてもこんな素敵な魔族の恋人がいながら複数人と浮気するだなんて、そのエルフの方はけしからんですね」


 途中、襲い掛かってきたコカトリスとは仲良くなり、彼女による長々とした恋愛話にも付き合った。


「あ、あのレザさん。話の途中にすみませんが、実はこのクッキーもオデが焼いたものでして……。オデは戦争の報告を魔王様にするのが本職なんですけど、本当はこういう風に自分が作った物を振舞うのが好きなんです。く、口に合いますか?」


「おお!美味しいですよ、このクッキー!専門店出してもおかしくないほどの腕前です!」


 同じくこちらに襲い掛かってきたのにもかかわらず、話を交わす中で恥ずかしがりながらも実は料理が趣味だということを明かしてくれた強面のオークが作ってくれたクッキーもつまみながら。


 ここまでの行動を見ても分かる通りレザは相手の心を開かせるのも得意だったのだ。そしてこれは『天賦の才』とも言える。


 不動産会社の営業マンを務めていた前世においても、彼はよく顧客の心を開かせていた。その様子を見た部下達もその真似をしようとしたのだが、どうも上手くできない。


 そのため前世の真留村富士夫だった頃だったレザはよく「どうすれば同じようなことができますか?」と聞かれていたのだが、彼は無意識にそれができていたから教えようがなかったのだ。


 過去、どうにか自分の営業スタイルを次世代に残せないかとマニュアル化しようと試みたことがあるが……。いざ文字にしたり図に上げてみてもしっくりこない。


 その時、彼は悟ったのだ。


「ああ。これは自分にしかできないことだ。他人ができないことが自然と自分はやれてしまうのだから」


 つまりこの男は生まれながらにして営業マンだった。そして、その才が今では魔族にすら通用しているのだから本物だ。


 こうして魔王城に侵入(というか訪問営業)しても、相も変わらず魔族を1匹も殺さずに進んできた彼の目の前には、とうとう大きな扉がその姿を現した。


 そう。この先に魔王がいる部屋がある。


 同時にここに来てようやく、自分は知らないうちに物凄く数の多い階段を登りきっていたことにレザは気づく。


「こういう運動が前世のうちに出来ていれば早死しなかったかもしれませんね」


 真剣な表情で場違いなことを彼はこう呟くが、後悔先に立たずの極みである。


 彼は振り返って城の外観と同じような漆黒に染まったその扉を見つめるが、これはさすがのレザでも少したじろいでしまうほど風格がある。


「ここに魔王がいるのですね」


 この短い期間で数多くの魔族と対峙してきた彼でも、ここは圧倒的に雰囲気が違うことはすぐに感じ取れていた。この世界に来て初めて鳥肌というものが立ったものの、それでも勇者レザは意を決し、重々しい扉を開いた。


「っ!!」


 その瞬間。尋常ではないほどの魔力が彼の肉体を貫いていく。さらに室内にもかかわらず荒々しい突風も吹き荒れて彼はその体勢を崩してしまった。


「……!あそこに座っている、あの方が……!」


 レザの目の前にいる存在。それは玉座に鎮座している魔王だった。


「初めまして、だな。勇者レザよ。吾輩はゴヴァ。魔王ゴヴァだ」


 こう口にしたゴヴァだが、何と彼は片手を少し前にかざしただけで膨大な量の魔力を放出させていたのだ。実はレザも魔王からは先制攻撃が来るだろうとは予測していたものの、ここまで高い魔力が急に向かってくるとは想定外だった。


 そのため、魔王による強力な攻撃をもろに受け、床に強く叩きつけられてしまう。


「遠路はるばるよく来たな。これは吾輩からの挨拶だ。とくと味わうがいい」


 そしてゴヴァは邪悪な笑みをレザへと向ける。まるで彼との戦闘を楽しみにしているかのように。

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