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最終章 最終話 営業マンらしく、勇者らしく

それから。


以外にも世間は穏やかに時間を過ごしていく。


ワルケの一件から数日後、魔王城において行われた人間の国王達と魔王ゴヴァとの会談は大成功に終わり、共に平和を保つための声明が出される。


一命をとりとめた勇者レザは入院していたために足を運ぶことはできなかったが、持ち前の営業マン魂で何とかコメントを発表することができた。


そしてそれからまた少し時間を経過させて完全にレザが回復すると、老婆に姿を変えて地上世界に降り立った女神が彼らの目の前に姿を現し、カウィズに謝罪をした。


そもそも彼女は異世界への転生の対象でなかったこと。それでも天界のミスによって転生をしてしまった以上はするべきだったフォローをしなかったこと。


どうも最高格の神だという存在からかなり絞られたという女神は、誠心誠意、頭を下げる。


それを聞いたカウィズは当初驚いたような表情を浮かべたがすぐに笑顔を見せて女神のことを赦した。


「大丈夫です。ワタシはここで一生懸命生きていきますから。転生できて、カウィズになれてワタシは幸せですよ」


しかし他方、女神はワルケに会うことができなかった。


レザも目を覚ましてしばらくした後に聞いた話なのだが。民衆に拘束されたワルケは嘘を重ねて魔王城への襲撃を煽動したことと、ガズランテ女王へ毒を盛ったことがかなりの問題になり、即時地下牢へと送られたという。


幸いガズランテも命を落とすことなくしばらくして公務に復帰できたのだが、どうもワルケには他にも様々な余罪があったようであり、彼女は息子である彼を王家から追放したのだ。


それを聞いたレザは僅かながら心を痛めた。


確かにワルケのしたことは大いに問題がある。それに前世の頃と変われなかった彼には改めて自分自身を見つめ直す時間が必要だとも思う。


しかし彼がこの異世界に転生したことは天界のミスが原因のはず。


だからレザは女神にあるお願いをした。


「ワルケ様がこの世界で死んだ後、彼の魂とコンタクトを取ってください。そしてもし本当に過去の行いを反省していたらその時に謝罪をしていただきませんか?」


レザの言葉を聞いた女神は驚きながらも深く頷き、「これからもこの世界の平和を保つようお願いします」と言って天界へと戻って行った。





「勇者レザ。ここまでの活躍、非常にご苦労だった。吾輩達から心よりの感謝に意を伝えさせてもらう」


「そうですか。それでは契約通り報酬を頂きます」


「おいおい・・・。もっと大きなリアクションをしろよな?」


魔王城の玉座に座っている魔王は「まあちゃんと報酬は渡すが・・・」と言ってガクッと肩を落とす。


「勇者さん、本当にありがとうございました。これで魔王城の方は落ち着けます。それに魔族側としても人間の方に危害を加えないように変わらず注意しておきますからご安心ください」


さらに魔王の玉座の隣にある、こちらも立派な椅子に座っている魔王妃・シルヴェは礼を述べると共に優しくも美しい笑顔を浮かべる。おまけにその胸に抱かれているギフィルという赤子も、レザの顔を見ると「キャッキャッ」と笑い声を上げた。


「いえいえ。こちらとしましては仕事を全うできたことに安堵しています。それと体の治療なども魔族の方々に尽力してもらい感謝です」


しかし彼らに頭を下げたレザは「あ、それと・・・」と心配そうに呟く。


「ん?どうした勇者。ここまでやってもらって、吾輩達としては本当に感謝の気持ちしかない。言いづらいと感じても堂々と述べよ。お望みならカウィズとのペア旅行券でも何でも良いぞ?」


「いえ。報酬の宝石類、家に持って帰るには1人だと大変なんです。そこで魔王城の魔族に運んできてもらいたいのですが・・・。配送料ってどれくらいかかりますか?もし運んでいただけるのに新規で契約書が必要でしたら今から作成をと思いまして・・・」


「もう良いよ!勝手にうちの魔族使えよ!タダだよ!こっちのボケを潰すなよ!」


「うふふ。相変わらず面白い勇者ですね」


いついかなる時も後々トラブルになるようなことは避けておきたい。やはり彼は、どこまでも営業マンだった。





「勇者様。体はもう大丈夫ですか?」


「ええ。もう大丈夫ですよ」


夕焼けに染まる道の上を、宝石類の宝箱や袋を背中に乗せた巨大なガーゴイルであるイーファとレザが並んで歩いている。


「それにしても勇者様カッコよかったです。侍従長のお爺さんを庇って、しかもワルケ王太子のことを止められるなんて凄いですよ」


「いえいえ。あれは彼が嘘をつきすぎて自爆したようなものですよ。遅かれ早かれ民衆から牙をむかれてたでしょうし。たまたまそのタイミングと重なっただけです。それに・・・」


「それに?」


レザは振り返る。


あの時、カウィズによる捨て身の行動が無ければああはなっていなかったかもしれない。世の中の事象というのは何が幸いするか分からず、あの草原に飛んだことであのような結末を迎えたのだろうと。


それにあの時、ワルケが侍従長コワシェに対して見せた態度にレザは我慢ができなかった。


レザは生前、自分が若い頃に嫌な思いをたくさんしたからという理由もあり、理不尽な目に合っている部下・後輩を何度も庇ってきた。時には自社の社長と対峙し、謝罪を引き出した経験があるほどだ。


非志海間助は営業マンの頃、若手社員を苛める絵にかいたような理不尽上司にいつも反抗していた。だからそのような姿勢の無意味さを知っていたはず。にもかかわらずワルケに転生した彼がコワシェのことをぞんざいに扱っていたことを、どうしても許せなかったのだ。


「いえ何でもありません。あ、そうだイーファさん。私の家の近くには美味しい料理の出る酒場があります。魔王様には内緒にして、荷物を置いた後にコッソリ行きましょうか?」


「え!良いんですか?やった!」


レザによる思わぬ言葉を聞いたイーファは小躍りして喜ぶ。


そう言えば、はじめてできた後輩が最初の契約を結べた時、彼はこのような感じのようなやり取りをしてご馳走したことがある。


成功体験を重ね、そこに褒美も加えることでモチベーションはアップする。それによって仕事に勤しむ同僚が増えると必然的に自分の負担が減る。


レザは自分の部下でもなんでもない魔族のガーゴイルにさえこのようなフォローをしてしまったことに、自身でも内心驚いてしまって食事の提案をした後に苦笑いしてしまった。


しかしもう撤回などできない。ウキウキで宝石類を運んでいるイーファのことを見ながら彼はこう思った


異世界へと行こうと、勇者などという役職に就こうと、やっぱり自分はどこまでも営業マンだったのだと。


「あ、でも・・・。そうだ!やっぱり魔王様のご家族やカウィズ様も呼びましょうよ!カウィズ様なんか、ずっと勇者様のことを看病していたんですよ!」


同時に、彼はイーファの言葉を聞いてハッとする。


自分はどこまでも営業マン・真留村富士夫である一方、ここでは勇者・レザなのだ。過去のことを思い出して生きていくのも良いが・・・。


この世界での、これからのことも考えていくべきだろう。


「・・・そうですね。お世話になった皆様にも美味しいものをたくさん食べてもらいましょうか?」


「やった!それじゃあ勇者様の自宅に荷物を置いたらイーファが魔王城に皆さんを迎えに行きますね!」


足取りの軽いイーファの背中を見ながら、営業マンであり勇者でもあるレザは、夕日に照らされながら歩みを進めた。

これで完結となります。

お読みいただきありがとうございました。

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