表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した勇者は、どこまでも営業マンだった  作者: 鶴嶌大晩
第1章 魔王様の夫婦問題
4/53

第4話 レザの冒険

「またイーファ様にここまで運んでもらいましたね。ありがとうございます」


 青々とした草原に降り立ったレザ。


 彼は約1年前にシルヴェを探した時と同じように、ここまで自分達を乗せて飛んでくれたガーゴイルに頭を下げる。


「あれだ勇者。あそこに見えるのが別荘候補である物件の建物。そして魔王使いのカウィズという若いおなごがいる場所だ」


 そして隣にいるゴヴァがこう声をかけて向こうの方を指さすと、後ろを振り返ったレザの視線の先にはそびえ立っていた。


「本当ですね。少し霞んではいますが大きな城が見えます」


 1年前には見られなかったはずの、魔王城にも劣らぬほどの迫力を持つ城のような、真っ赤な建築物が。


◇◇◇


 この草原は世界の空白地帯。


 人間が暮らしている『いくつかの国』もここを領地としておらず、魔王でさえ支配しようとしていない場所。


「まあ、そもそも吾輩達というのは領土を奪う目的で戦争を行っていたわけではない。そんな支配欲など存在しないからな」


 ゴヴァによると先代魔王が争いを始めたのも、人間側が魔族を迫害してきた歴史の積み重ねがあったからだという。


 つまり先の戦争における魔族軍の目的というのは、人間が暮らしている土地を奪うというよりも、自分達を攻撃してきた人間に反撃することだったのだ。


 ただ先代魔王の人間嫌いはかなり深刻だったので、その考えが大いに魔族軍には影響していたようだが。


「しかし争いも長引くと『もう終わってもいいんじゃないか?』という考えが敵味方問わず出てくるのは古今東西だ。魔族の中にもそのような者が多かったらしいからな」


 黒いマントをはためかせ、青々と茂った草原の上をゆっくりと歩みを進める魔王。彼はレザに「それにそういう意見が出てきたのには父がもういないというのも大きかった」と言いながら話を進める。


「だから魔王様をはじめとした魔族達は、人間がいないこの土地の占領にも関心がなかったと?」


「いや……。それもあるんだがこの草原に魔族は近づきすらしなかった。そしてその理由が何を隠そうあの建物だということが分かった。ここからは分かりやすく『赤い城』とでも呼ぼうか」


 少し遠くにイーファを残して、『赤い城』を目当てに進む2人。しかしそれからはかなりの魔力が放たれており簡単に近づけるというわけではなさそうだ。


「昔から噂は聞いていた。父は世界各地に拠点とするための城を建築していると。しかし厳格な彼は秘密主義者でもあったのでな、未だその全てを吾輩は把握しておらぬ」


「なるほど。して、この草原に魔族が近づこうとしなかった理由とは何ですか?」


「どうもあの『赤い城』からは魔法使いのおなごが住み着く以前から大量の魔力が拡散されていて、それが原因あったんだ。これも魔族の体に悪さをする仕様らしい。例えばそうだな……『吐き気を催すほどの頭痛を起こす』とか『動けないほど体の節々が痛む』とかのようにな」


「何だか酷い風邪の症状みたいですね」


 こう話しながらレザとゴヴァは、多少苦戦しつつはあるものの彼らに向かってくる魔力を弾きながら『赤い城』へと一歩一歩確実に向かっていく。


「1年前にシルヴェを救出しにお前と共にここを初めて訪れた際、さすがの吾輩も違和感を覚えた。そしてそれから色々と調査をした結果、ようやく『赤い城』の存在とそれがもたらしている悪影響を確認できたのというわけだ」


「で、この中には魔法使いのカウィズという方もおられるのですね?」


「そういうことだ」


 レザは会話をしつつも確かにこの『赤い城』の本体から、言葉で表現するには難しいが嫌な感じがする圧のようなものを感じていた。


「しかし魔王様。これらの圧というのはそのカウィズさんという方が用いている魔法でもあるのですよね?」


「そうだ。父が設定していた強力な魔王一族の魔力と、その魔法使いによる防御魔法が混ざってしまっている。厄介なものだよ」


 こうは話すもののゴヴァは「ただ部下が言っていたよりも父の魔力は弱そうだな?」と漏らしつつ、遂に『赤い城』の目の前まで進むことができた。


「思ったよりもあっさりと城の目の前まで来ることができましたね」


「ああ。しかし以前聞いた話だともっと強い魔力だったはずだがな」


 少し違和感を覚えて首を傾げるゴヴァだが、もう彼らの目の前には大きな扉が現れている。そうすると、何とかしてこれを超えて赤い城の中に入らなければならない。


「前回部下の魔族はここまでしか来られなかったのですよね?」


「そうだ、何をしても中には入ることができなかった。それでもここでカウィズとかいう魔法使いと会話ができたらしいのだが。おい!カウィズ!勇者のレザを連れて来たぞ!早くここを開けろ!」


 だが……返事はゼロ。


「おいおい。せっかくお望み通り勇者を呼んできたのに、もしかして居留守なのか?」


 魔王は腕組みをしながら不服そうに顔をしかめる。するとレザはゴヴァのことを手で制し、胸を張りながら前へと出た。


「こういうのは得意です。そのような態度で挨拶をしても返事はないでしょう」


 するとレザは咳払いをし、大きな扉を数回ノックした後、大きな声を出した。


「お世話になっております!勇者のレザと申します!この度、カウィズ様が私とご面談をしたいとの要望を魔王様からお聞きし伺いました!物件資料等をご準備いたしましたので中に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「おい勇者。物件資料って何だ。隠してるはずの前世が漏れてるぞ、前世が」


「おっとすみません、お客様のご自宅をご訪問する際をイメージしたのですが、つい癖であるはずもない『物件資料』というワードが出てきてしまいました」


 レザは恥ずかしそうに頭をかく。やはり彼はどこまでも営業マンなのだ。


 そして彼の言動に呆れるゴヴァだが、しばらくすると扉が軋んだ音を立てながらゆっくりと開いた。


「……って、お、おい勇者!本当に開いたぞ!」


 しかし、それと同時に。


「「……あ……れ……?」」


 勇者レザと魔王ゴヴァは、揃って急に体中から力が抜け、その場に倒れ込んでしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ