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第4話 レザの冒険

「おう、お前が勇者のレザか。俺は戦士。魔族を倒すのは得意なんだ仲間になってやろう」


「お気持ちは嬉しいのですが、今回はお断り申し上げます。大変申し訳ございません」


「あ、あの・・・。ワタシは魔法使いです・・・。と、共に魔族を倒すために冒険をしませんか・・・?」


「お気持ちは嬉しいのですが、今回はお断り申し上げます。大変申し訳ございません」


「おう!アタシは格闘家さ!魔族なんてアタシの拳を使えば一瞬で粉々さ!どうだい!一緒に・・・」


「お気持ちは嬉しいのですが、今回はお断り申し上げます。大変申し訳ございません」


「アンタ、誰に対してもその言葉を言い放って断ってるみたいじゃない!そんなに仲間がいらないのかい!お、おい無視すんなよ!コラ!おい!」


魔王の居場所に向かって旅を進める勇者レザ。そんな彼のところには毎日のように仲間になりたいという人物が声を掛けてくる。


しかしレザはそれらの誘いには乗らず、要望にも応えず。ただただ断るだけ。


「勤めていた会社の社長の付き合いの為に何度か歓楽街を通ったことがありますが、そこにいた大量の客引きよりもあしらうのは簡単ですね」


こう呟きながら足を進めるレザだが、彼は旅において『赤の他人』という不確定要素を排除したかったのだ。しかしそれは、何も裏切りの可能性などを怖がっていたとかではない。


勇者レザは、その前世において不動産会社の営業社員として勤務をしていた時(当時の名前は真留村富士夫)でも、できるだけ単独で行動することを好んでいたのだ。


例えば、必死の形相で「売りに出た物件をいち早く見学しに行きます!」と嘘をついて喫茶店でコーヒーを飲みながら時間を潰す。


例えば、「契約に必要な資料を各所に言って集めに行きます!大変なので時間がかかるかもしれません!」と言いながらも帰りにファミレスで時間いっぱい期間限定メニューを楽しむ。


例えば、「お客様から緊急の呼び出しです!」と周りに報告しながら訪問した高齢の客の居間でのんびり一緒にテレビを観て世間話をするなどなど。


念のために記しておくが、彼は業界の中でもちょっと有名なほど愚直で真面目な男ではあった。


しかしその一方で外出する際には出来るだけ同僚などを同行させないようにし、割と好き放題動いていたのだ。


「少しは外に出た時にストレス発散しないとおかしくなってしまいますからね・・・」


当時のことを思い出してこう独り言を発するレザ。


常に効率の良さを求め、部下からの人望もそれなりにあり、勤勉で顧客からの評判も良かったのだが、それなりに人間らしいところもあったのだ。





「そう言えば、魔王とはどのような方なんでしょうか・・・?」


旅の道中、木陰でしばしの休憩をしていたレザはこんな疑問を口にする。


勇者レザの最終目標はもちろん魔王。この存在は魔族軍のトップを務めており、彼はその魔王を止めるがために転生したのだ。


と言っても彼はそれなりに魔王の情報は掴んでいた。


袋の中を漁るとレザが取り出したのは、色あせた古い書物。


これは十数年前に冒険家であったという著者が危険を顧みずに接触した魔族の生態を記録したという貴重なものであり、先日レザが立ち寄った国の国王から「これは勇者である其方に託したい」と特別に譲り受けたのだ。


「これには様々な魔族の話が載っていますが、魔王についての記載もありますからね・・・」


パラパラとページをめくる彼は目当ての項目を見つけるとじっとそこを読み込む。


『意思の疎通ができた複数の魔族から聞いた話によると、現在の魔王は2代目。


彼は先代魔王から徹底した帝王学を学び、その高いカリスマ性と魔力に惹かれた魔族達から高い支持を受けているらしい。先代魔王が始めた人間との争いも、この男が魔王になってからさらに悪化したのだ。


躯体は巨大でそのオーラも他の魔族と比べても桁違い。魔王について語った魔族は皆、口を揃えてその圧倒的な存在感について言及をしていた。』


「なるほど・・・」


レザはそれを読みながら魔王についてのイメージを膨らませる。


前世が不動産会社の営業マンだった彼はこういうところに抜かりが無い。


「自分が暮らしている家を売りたい」という連絡を受けた際、彼はその物件そのものだけでなく周辺環境などの調査も細かく行ってから顧客と会うようにしていた。


営業マンとして知識の無さは死活問題。自らのところに相談してくれた人間に隙を見せる訳にはいかない。


真留村富士夫であった頃のレザは常にそのような考えを抱いて営業活動を行っていたのだが、どうも彼はその頃の癖のようなものが抜けないのだ。


「いつ魔王に出会えるか分かりませんからね。今の内から色々と情報を頭の中に入れておきましょう」


もし明日、魔王といきなり対峙したとして彼のことをさっぱり知らなければそれは失礼にあたる。たとえどのような存在が相手であっても礼儀を持つというのがレザのポリシーだ。


そしてさらに書物に書かれている内容に目を通していたところ。


『なお、魔族達はこのようなことも常に口にしていた。どうやら魔族間では、いつかこの世界には別世界から訪れた転生者というのが現れるというのだ。


つまり一度死んだ人間が生まれ変わるという話なのだが、どうも著者はこれに賛同できない。


なぜなら、そんなことなど起こり得るはずないからである。もし本当に別の世界から来た者と会ったら、目が飛び出るほど驚いてしまうだろう』


この文章を口に出して読んだレザはパタンっとその書物を閉じ、どこか呆れたような顔をして天を仰ぐ。


「これは私のことですか・・・。確かに普通は起こり得ないことですからね・・・」


しかし自分はそんな、目が飛び出るほど非科学的な状況の当事者になってしまった。


それでもレザは「まあ仕方ないですね」と気持ちを切り替え、自分のペースを崩されるのが苦痛であるためにわざわざパーティーなどを組むなどということはせず、立ち上がり荷物をまとめて旅を再開することとした。

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