第2章 第5話 離れ離れの勇者と魔王
勇者レザは目を覚ます。
最初はぼんやりとしていた視界だったが徐々に焦点が合う。
すると……そこは可愛らしいピンクの装飾がそこかしこに施されている、そこまで広くない部屋だということに気づいた。
「ん……こ、ここは……?」
さらに自分の置かれている状況。
体はイスにロープで強く縛りつけられてしまっており、上半身を揺らすこと程度はできるものの立ち上がることなど不可能。
それでもレザはガタガタと音を鳴らしてどうにか自由になろうと抵抗していると。
「め、目が覚めましたか?すみません、手荒な真似をして」
「あなたは?」
その目の前には若い女性が現れた。
紫色のローブを着用している彼女は18歳であるレザと同い年ほどだろうか。そして部屋中の装飾と同じような艶やかなピンク色の長いストレート髪を携えているのだが、彼女はそれをいじりながら自己紹介をする。
「こ、こんにちは勇者。ワ、ワタシは魔法使いのカウィズです」
魔法使いのカウィズ。レザはその名前を聞いて、先日夢に出てきた女神の言葉を思い出した。
『異世界に転生した者があと2名いる』『この者達は魔王のことを倒さなければならないという強い固定観念に縛られているようで、レザがもたらした平和に不満を持っている』
勇者にとってこれはかなりの厄介事だ。もし他の転生者の手によって魔王が攻撃されてしまうと、さすがに魔族は反撃するだろう。そうなると再び人間と魔族との争いが勃発する可能性が高いのだ。
そしてそんな転生者の1人がこのカウィズ。レザは彼女が変な気を起こさないよう説得を試みようとここまで探し求めており、ここでとうとう出会うことができた。
「カウィズ様。あなたはどうして私のことを捕らえるのですか?魔王様はどこですか?」
ひとまずレザは彼女に探りを入れる。
ゴヴァに対してもそうであるが、レザは自分が転生した人間であることを他者にハッキリと明かすつもりはない。だが本気でカウィズが魔王を倒そうという考えを持っているのであれば、自身の身の上話をする必要はあると様々なプランの用意はしていた。
瞬時にあらゆる対応策を頭の中で予測しシミュレーションしていくレザ。同時に拘束されながらも身構える勇者だが……カウィズは床に目を伏せてこう答える。
「ワ、ワタシの目的は……魔王を倒して……」
やはりカウィズはゴヴァの命を狙っている。これはレザにとって由々しき事態。
慌てたレザは必死になってロープから脱しようと体を動かすが。しかしカウィズは気恥ずかしそうに頬を赤く染めてこう続けた。
「そしてそれを果たした後は、勇者レザの妻とならなければ……」
「……は?え?」
だが彼女が発した突拍子のない言葉を聞き、思わず目を白黒させてマヌケな声を上げてしまうレザ。するとカウィズは身を乗り出し、彼の瞳をじっと見つめながらさらにこう続けた。
「やっと捕まえられた。ねえダーリン、これから一緒に魔王を倒しましょうね?そして『異世界転生』らしく世界を平和にして結ばれましょうね♡」
「あー……これ……。すっごく『個性的』な女性のパターンでしたか……」
さすがの勇者レザでもこの展開だけは想像してなかったのだ。
◇◇◇
「……ん?ここはどこだ?」
一方の魔王ゴヴァ。彼はレザとは違ってまるで牢獄のようなところで目を覚ました。
「……なるほど。しかし本当にこんな檻で吾輩のことを閉じ込めようとしているのか?」
こちらもすぐに状況を飲み込み、そして目の前にあるあまりにも貧相な鉄格子を見ながら呆然としていた。
自分の体を確かめてみるが手足に錠などもかけられていないし魔力によって動けないというわけでもない。確かに鉄格子からは触れた者を傷つけるような魔法を感じるものの、それも彼にとっては取るに足らないレベルのものだ。
「ふむ、ここにあいつがいないということは2人揃って気を失ってしまい、分断させられてしまったのか。しかし仕方ない。さっさとここを出て勇者を探すことにしよう」
目を覚ましてからここまで非常に短い時間しか経過していないのだがゴヴァはこの状況をすでに分析できている。さすがに魔王というところだ。
「しかしこの吾輩と勇者の気を一瞬にして失わせるとは。なかなかやるな、例の魔法使い。まあそれでも眠らせるだけで精一杯だったとは思うが」
恐らく自分達はカウィズという魔法使いの手によって意識を失い、ここに連行された。しかし部下によると彼女は「勇者レザに会いたい」とか言っていたのだから、主たる目的は彼の方なのだろう。
「となると吾輩は邪魔だったのかもしれないな。だがそもそもここは吾輩の父が建てたもの。部外者が勝手に中に入って好き勝手利用して許されるものではない。吾輩が別荘として使いたいのだ」
そしてゴヴァは目の間にある鉄格子を掴んで腕力を用いて無理やりそれを開くと、手狭な牢獄を出て勇者を探すことにした。
「ここは地下か?外の光が全然入ってこないな」
ある程度の道を進んだところで足を止めたゴヴァは、きょろきょろと周囲を見渡す。しばらく歩いただけでそこはまるで迷路のようになっていると彼は把握したのだ。
しかし彼は魔王。
「吾輩にとっては何の障壁にもならない。この魔王、人間と和平を結んだということでこんなにも舐められておるのか」
ゴヴァは四肢に魔力を溜めるとそれを一気に放出。
地面や壁を這わせたこの魔力を手掛かりに五感を研ぎ澄ますと様々なルートを分析し、地下道の構造を完璧に理解してしまった。
「なるほど。やはりここは迷宮のようになっておったのか。ふむ……いくつかトラップも仕掛けられているようであるが今の内に潰しておくか」
さらに彼は地面に膝をついて地面に両手をつけて再び魔力を放出する。それからしばらくして遠くの方で爆発音がすると満足そうな顔をして腕組みをした。
「待っていろ、魔法使いのカウィズ。お前のことを必ず見つけ出し、この『赤い城』を名実ともに吾輩の別荘にしてやろう!」




