カナリア様とお友達になりましてよ!
エントール公爵家は代々聖騎士を輩出しており、風魔法の使い手が多かった。
カナリア自身はさほど魔力量も多くなく、令嬢であることもあり、魔法を磨く気もなかった。
しかし…
「違います!魔力操作が雑ですわ。氷魔法の時と同様とお考えでは、いつまでたっても物一つ動かせませんわよ。魔力を自分の体ではなく物体に集約させるのです。魔力で物質を生み出す氷魔法とは違い、風魔法は周囲の空気や風に魔力を送るのです。」
弟らの子守がてら強請られ、初期魔法を教えていたこともあり、風魔法の指南は驚くほど上手かった。
「風は目に見えなくってよ。まずは、魔力の感知を磨いてくださいまし」
「魔力の、感知…」
「風…つまり空気には魔力が通っているのです。それを見出すことが第一歩ですわ。それができなければ、腕立て40回追加ですわ。素晴らしい上腕二頭筋と背筋を手に入れて、シリウス様に幻滅されるとよろしいのよ」
はちゃめちゃスパルタである。あと少し脳筋だった。
「ここでは氷魔法を禁じます。さあ、風の魔力を見つけるのです。」
エリューシスの回りだけ、空気が渦巻く。カナリアが風魔法を使用し、エリューシスが見つけやすいよう、わざと空気に動きをつけている。
初めはなにも感知できず、ただ焦りだけが募っていた。
カナリアの魔力はさほど多くないため、練習はすぐに中断した。何日も何日も演習場に二人は足を運んだ。
「っふぅ…、い、一度休憩いたしますわよ」
「エントール様、申し訳ありません…何日も付き合わせてしまって…」
珍しく苛立った様子のエリューシスに、カナリアはふと疑問をぶつけてみる。
「貴女、氷の魔女と呼ばれるほどの使い手でしょう?なぜそこまでするのです?」
「そうですね。…わたくし、氷魔法に関しては我が領随一、と自負しております。」
「え、えぇ」
きっぱりと謙遜せず言いきったエリューシスに、カナリアはやや引き気味にうなずいた。
「しかし氷魔法はご存じの通り、季節性に左右されやすいです。たやすく融けてしまうような氷は作りませんが…。」
夕日になりかけている太陽を、目を眇めて見つめる。
「あと氷魔法の極大魔法を行使できるようになるには、今よりさらに繊細な魔力操作が必要になりますので…」
「きょっ極大魔法!?貴女、極大魔法を習得なさるおつもりなの!?」
「はい。」
「はいって、こともなげに…」
魔法の極致、極大魔法。
それを目の前の少女が、自分と同じ年の少女が、習得まであと一歩だとのたまった。
カナリアはその努力の一端を見た気がして、思わず感嘆を漏らす。
「氷の魔女たる所以ね…。でも極大魔法は、魔法師が人生をとして完成させるもの。天賦の才を持つ者が更に研鑽を重ねて辿り着く真技。その極大魔法の完成を急ぐのは、辺境伯の現状と何か関係が?」
「…」
エリューシスは沈黙を守る。是と答えたようなものだった。
「まだ目で魔力を視ようとしておりますわ!ちゃんちゃらおかしいですわよ」
「氷魔法をお忘れなさい!時間です!スクワット30回!」
「貴女様、今まで無意識で吸っていた空気に謝罪しながら、演習場10周なさいな!」
魔力の感知というよりも、段々と筋トレがメインになってきた頃。
筋トレの回数も序盤より回数が増えてきて、「なんだか、お嬢様の腰回りが更にすっきりとしてきた気がいたしますわ」とメイドに指摘され始めた。
「ふがいないです…。不甲斐ないです!」
「氷の魔女というか、熱血の魔女ですわね…」
ぜーはーぜーはー、荒い息と滴る汗を乱暴に拭う様子に、カナリアが乾いた笑みを浮かべる。
数えて二十三日後、エリューシスはついに、風の中に魔力の本流を見つけた。
そこに、自分の魔力を流し込む。
カナリアの魔力とエリューシスの魔力がぶつかりあい、風が霧散した。
「え」
「え」
「やりましたわカナリア様!」
「えぇ、えぇエリューシス様!素晴らしいですわ!」
二人で手を取り合い、幼子のようにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「風魔法は、魔力感知が一番の難所ですの。ここからは早いですわよ。」
「はい!どうぞご教授ください」
まるで男の友情のように、熱く手を握り合った。
シリウスとの追いかけっこがなくなって、数週間。
エリューシスとカナリアとの(ややオトコクサイ)友情は深くなった。
カナリアは取り巻きもどこへやら、二人で魔法の話をよくするようになった。
「では、風魔法は、上級魔法を使えるようになると、意思伝達も可能になるのですね」
「そうです。風の振動を読み取る魔法を会得せねばなりませんが、戦場では非常に有効ですのよ」
「なるほど。何故エントール公爵家が騎士を多く輩出しているのか理解しました。氷魔法は、上級魔法が使えないと環境に左右される部分が多くありますから…」
「たしかに…ですが疑問です。氷魔法と水魔法の違いとはなんなんでしょうか…」
「氷魔法の氷は魔力ですので、融けたとしても水が残るわけではありませんが…」
「なるほど…ならば、」
などと、魔法研究会のような内容である。
「カナリア様…いえ、リア。わたくし、貴女様と知り合えて、本当に良かったですわ」
「えぇ、エリー。わたくしも、貴女様と友になれたこと、本当にうれしいですわ。…シリウス殿下の事、本当に申し訳ない事をしました。謝ってすむ問題でもないのですけれど…」
「えっ!…なんのことですの?」
「えぇ!?お忘れですの?!」
二人でキャラキャラと笑いあう。エリューシスはかけがえのない友を得たのだった。
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