今日も今日とてエスケープ!
シリウスよりも王太子によく似た国王は、軽快に笑いながら蓄えたひげをゆったりと撫でる。
「エリューシス・スカルタス嬢。これからも国の為に働き、何より我が息子、シリウスを大いに支えてくれたまえ」
「拝命します」
国王直々の「息子との結婚断るんじゃねーぞ」という圧をかけられながら、シリウスとの結婚が確定した。
「っだ~~~!!逃げんじゃねえ!エル!エリューシス!」
「おっほほほほ!シツコイ男は嫌われましてよシリウス様失礼ごめんあそばせ!」
王位継承権を放棄し、大公爵となったシリウスは、広い屋敷の廊下をバタバタと走りまわる。
妻となったエリューシスが逃げ回るからだ。
「奥様、また逃げてるんですか?」
「旦那様~、奥様は中庭ですよ~」
「あっ誰です!タレ込んだの!」
庭師の一人が、シリウスに告げ口する。すぐさま、中庭に面した三階の窓がバンッと乱暴に開かれた。
「そこかぁ!」
その窓から飛び降りたシリウスに、メイド達はたまらず悲鳴を上げた。
「【浮遊せよ】」
エリューシスがすかさず浮遊魔法をかける。シリウスの体は揺らぎなく、ふわりと中庭に降り立った。
朱殷の長い髪が揺れる。
「もう、いい年なんですから、危険なことはしないでください」
「そっくりそのままお前に返すぞ」
「あら、わたくし危険な事はしていませんもの」
ふふっと楽しそうに笑うエリューシスに、シリウスは髪を乱暴に乱した。
エリューシスの腰を抱くシリウスに、エリューシスは慎ましやかに寄り添う。
「さ、北方の賓客への対応の講義に戻るぞ」
「なーんでわたくしがよばれるんですの?!絶対シリウス様だけでいいですわよね!?せっかくリアとお茶会をする予定でしたのに、接待をぶち込まれたわたくしの気持ちはどうなるんですの!」
憤慨するエリューシスに、「戦乙女を御所望なんだから、しょうがねえだろ。接待も貴族の義務だぞ」と面倒くさそうに言い放つ。
「…。貴方、案外真面目ですわね」
致し方なく執務室まで連れられるエリューシスに、シリウスは、やや心外そうな様子だった。
「お前がこうしたんだろ。」
「え?わたくしが?」
目を見開いて驚いたエリューシスの頬を、シリウスがつつく。ちょっとやめてくださいませ、という言葉は華麗に無視された。
「俺との茶会やらなんやらを逃げ回るお前を見て、ヒトのフリ見て我がフリ直せみたいな感じになったんだよ。」
「…性格矯正?」
「どっちかっていうと、反面教師だろ」
エリューシスの細い腰をゆったり撫でる。その手つきがヤラシいと、エリューシスはシリウスの手をつねった。
執務室には執事や、側近の姿はなく、珍しいなと首を捻る。
「あら?誰もいらっしゃらないわ。」
「そうだな。」
執務室の重い扉が閉まる。扉が閉まる音が、やけに耳についた。
「講義の前に、逃げ出した妻を見事捕まえた俺は、まず戦利品をいただくことにした。」
がっしり腰をホールドされ、エリューシスは飛び上がった。
「やっ!昨日もしたでしょ!?」
ドレスの裾から手を入れられ、内股を撫でられる。ワンピースに近い、簡易ドレスを着ていたのが、良くなかった。不埒な手は、どんどん侵入してくる。
「ふ、あっ」
思わず甘い声を漏らすエリューシスに、シリウスはニンマリとした。
「すっかり俺好みだな」
「は、んんっ あ、あっ」
髪をまとめていた飾りをとられる。藍白の髪が揺れて落ちた。
髪と共に、甘く涼やかなにおいが、ふわりと香る。
軽く啄むようなキスから、段々と深くなる。エリューシスは逃げるのを諦めた。
ゆっくりシリウスの舌を受け入れ、やがてその愛も受け入れた。
後日「執務室でヤるのはやべぇ。仕事にならん」と一人悶えているシリウスがいたとか、いなかったとか…。
元第三王子、シリウス・アル・スカーレット…今は、シリウス・アル・スピネル公爵は、今日も逃げ回る妻を追いかける。
元悪役令嬢、エリューシス・スカルタス…今は、エリューシス・アル・スピネル公爵夫人は、今日も夫に捕まるのだ。
これにて完結です。
初めての創作、シリーズものを書ききれて本当によかったです。
拙い作品ですが、お付き合いありがとうございました。
掘り下げられなかった部分は、余力があればいつか番外として書けたらなと思います。
ありがとうございました。




