表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

氷魔法って悪役っぽいですわね!



万が一、第三王子の婚約者に選ばれてしまった際の布石として、エリューシスは、氷魔法の極大魔法を習得するつもりだった。

極大魔法の使い手は国に保護という名の管理をされる。

第三王子と婚約破棄に至ったとしても、極大魔法の使い手ならば、国は無下にできない。という思惑だ。

その為、エリューシスは7歳の誕生日から、魔力を練り上げ、氷魔法の修練に励んでいた。

「お嬢様!それでは自滅するだけですよ!」

一年かけて練り上げた魔力で、氷を生み出す。しかし、すぐに融けだした。それどころか指先が凍りかけてしまう。


騎士団員の一人が慌てて止め、魔力を霧散させる。

「うぐぐぐ…。氷ってわかってるのに、魔力を物質として出現させられないぃい」

形容しがたい恰好で苦悩する令嬢に、騎士は苦笑した。

「たった一年で、お嬢様程の年齢の子供が、ここまで達する方が恐ろしいです」


基本的に魔法は、早くとも十歳程度から習うものだった。

魔力の練り上げに体がついていかない、という点と、魔法にまわせるほどの魔力が、幼い体に身についていないからだ。

魔力とは生命力。

幼く不安定な子供が、安易に魔法として使う事は原則禁止されていた。

エリューシスが魔法の修練を許された理由はただ一つ。


エリューシスの魔力がすでに膨大だったからだ。


魔法を修練し、その膨大な魔力を、効率的かつ安全に発散させる。

それがエリューシスには必要になる程の、魔力量だった。


一年かけてひたすら、魔力を練り上げ、膨大な魔力に耐えうる魔力回路を作る。

幾度か漏れ出た魔力で、部屋を凍り付かせながらも、エリューシスは氷魔法に打ち込んだ。


エリューシスの自室は、真夏でも窓辺に氷柱がはる。


「おねえさまのおへや、すずしーい!」

弟は暢気なもので、真夏の氷室状態の部屋で、のんびりと過ごしていた。

「無意識に流れる魔力では、氷柱が出現しているのに…。意識的にやろうとすると、なぜできないの…」

初めての挫折、に打ちひしがれるエリューシス。

「普通は、無意識にできるものではないんですけどね…」

騎士は、エリューシスの手を温める。

エリューシスの子供らしい、小さな手は、しもやけで赤く腫れていた。


「ですがね、エリューシス様。魔法で身を滅ぼしては、本末転倒です。」

優しい手つきに、エリューシスは、思わずその手を見る。

「魔力操作は繊細な作業です。氷魔法師にとって、真夏は、環境からのレジストを強く受けます。つまり、氷魔法師にとって一番魔法を行使しにくい季節です。」

それでも貴女様は、その身を傷つけてしまうほどの魔法を、使えてしまうようになるのですね。

彼女の中にある魔力で、また一つ氷柱が増えた。





「いっそのこと、氷室の中で修練したらどうだ?」

シリウスからの全うな意見だが、エリューシスは首を振った。

「もうやったんですが、全てをべっきべきに凍らせてしまって、もはや永久凍土レベルにしてしまったので…」

貴重な氷室を壊せない。という事で室内訓練場で行う事となった。

「最初は俺も服を焦がしたりしたが、ここまでにはしてねーぞ」

室内の訓練場の床が、スケートリンクしかり凍り付いていた。

歩こうにも滑るため、メイドは外で控えることになった。氷魔法師である騎士は自分の魔力で足元を調整していた。

「殿下!中は滑ります!」

「見りゃわかる。俺の魔力でレジストすりゃいけんだろ」

シリウスが一歩踏みだすと、周辺の氷が融けだした。

氷魔法の氷は魔力なので、魔力がレジストを受けて霧散すれば、氷は融解し、消失する。

シリウスも例にも漏れず、非常に高い魔力と魔法技術があるため、苦も無く、訓練場の中央にいるエリューシスのそばまで歩いて行った。

「さすがでございます殿下…」

騎士は感動したように、賞賛する。

「ハッ無意識で出した氷魔法なんて、普通にレジスト可能だわ」

賞賛にすら当たらないとばかりに、面倒くさそうにするシリウス。

いえ、それができなくて皆入ってこれないんですけどね。

と騎士は乾いた笑みを浮かべた。



いっそ夏の間のお茶会は、訓練場でいいな。

と思いながら、シリウスはエリューシスの魔力を視る。

今日も元気に垂れ流してんな、と軽い冷気に身を任せた。

そして、あ、と目を見張る。

「お前、イメージが具体的じゃないんだろ」

「え?…イメージって氷って以外ありますか?」

「氷なんだが…氷と聞いて何を思い浮かべる。何をイメージする」

「???」

ますます首をひねるエリューシスに、騎士が助け舟を出す。

「私も最初、氷をイメージできなかったのですが、こう…具体的な印象深いものを作り出そうとすると、やりやすかったですね。ちなみに私は、故郷でよく出現していた、氷蜘蛛でした。アレが生理的に無理だったんですが、もう氷蜘蛛しか頭に出てこなくて…」

思い浮かべるのも嫌だったんですが…と顔を青くする騎士。エリューシスは、氷と言えば…と氷柱のはった天井を見あげた後、はっと胸元を握った。


「ありましたわ!わたくしの氷!」

目を輝かせ、両手を空中へかざす。


「【氷華】!」

垂れ流されていた魔力が、急に収束する。

床に這っていた氷も、天井の氷柱も全て融けだし、魔力がエリューシスに返る。


そして爆発した。



「おい、まてっ」

魔力の急激な流れに、シリウスは声を上げるが、間に合わない。

騎士が慌ててシリウスをかばった。



瞬間




膨大な量の、氷の華がキラキラと天上から降り注ぐ。



まるで宝石がばらまかれたように


氷華同士がぶつかり合い、シャラシャラと音が鳴る。


小さな華だが、確かな質量を以って



「あでででいてっいてててて!」

騎士の氷結界も打ち破り、シリウスのレジストをも破った氷の華が、騎士の背中に降り注いだ。


「あっあっ!ごめんなさい!」

慌てて魔力を霧散させると、美しい氷華も消失する。


「素晴らしいですお嬢様!美しい魔法でした!」

攻撃力もばっちりです!と背中をさする騎士に、エリューシスは慌てた。

「怪我してない?!ごめんなさい…」

「大丈夫です。殿下にも傷一つありませんよ。俺は氷結界の修行を今日からしますね!」


「で、でんか、その…」

騎士が庇わなければ、この国の第三王子に怪我をさせていたかもしれない、とエリューシスは顔を青くした。


「みてろよ…」


「え…?」


「お前の氷魔法、絶対レジストしてやるからな!みてろよ!」


「えっ?えっ??」


怒ったように訓練場を飛び出していったシリウスの背中を、展開についていけず、エリューシスは呆然と見ていた。





お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ