華麗にキめるわエスケープ!
初投稿です。よろしくお願いします。
「っだ~~!!逃げんじゃねぇ!エル!エリューシス!!」
「おっほほほほ!シツコイ男は嫌われましてよ殿下!どうぞお幸せに、失礼ごめんあそばせ!」
第三王子とその婚約者の追いかけっこ、もとい、婚約者の逃亡劇は今日も続いている。
今日も元気に第三王子から逃亡している令嬢は、スカーレット王国の筆頭侯爵の長女、エリューシス・スカルタスだ。
第三王子の婚約者である。
ここは、自由投稿型サイト「作家になろう」通称「なろう」で連載投稿されていた人気小説『輝きのスカーレット~転生したら聖女だった!?5人の星達に愛されて~』の世界だ。と、いう事をエリューシスは7歳の誕生日に思い出した。
エリューシスは原作での登場はまずまずあるものの、紹介文は短い。
色素の薄い藍白の髪に、青藍の瞳。氷の魔女と呼ばれ、第三王子の婚約者。
というごく簡素なものだった。作者にあまり思い入れがないのかもしれない。
そして、エリューシスの前世「ゴトウ アヤメ」が覚えている限り、第6章でエリューシスは卒業記念パーティの日に断罪され、聖女冒涜罪で絞首刑となる。
「エリューシス、お前ちょっとは人の話きけよ!」
「…なんだかその言葉を殿下に言われるのは心外ですわね」
「おまっ…不敬罪って言葉知ってるか?」
彼女を追いかけて、周囲から生温い視線を送られているのは、ヒロインを取り巻く一人、第三王子 シリウス・アル・スカーレットである。
朱殷の髪に、茜色の瞳をもつ、苛烈さとワイルドさを混ぜ合わせたビジュアルの、いわゆる俺様系王子。
炎の魔法の使い手で、俺様気質で自由を好む性格のため、真面目でお堅い婚約者を嫌っている。
…嫌っている、はず、だった。本来は――
前世の記憶、主に原作のストーリーを思い出したエリューシスは、混乱しながらも「さすがに絞首刑で死にたくないわね」と七歳を迎えたベッドの中で呟いた。
「まずは第三王子との婚約は回避したい…。もし婚約確定しちゃったら、穏便な破棄にもっていかないと…。あと、ヒロインが異世界から来る前に、逃亡ルートの確保でしょ。それから…」
必死にストーリーを思い出しながら、原作補正がかからないことを祈るばかりであった。
「どこまで原作補正がかかるかわからないけど…やるわ…やってやるわ!」
そこから、エリューシスの逃亡生活…いや、第三王子の不憫な生活は始まった。
曲がりなりにも筆頭侯爵の令嬢。そして、現在は王子の婚約者候補。婚約は、十歳の誕生日まで確定しないものの、貴族間のパワーバランスを見ても、よほどの事がないかぎり覆らないだろう。
七歳の誕生日から数日後…
嫌々、渋々といった様子で、同い年の幼い第三王子が、エリューシスとのお茶会に出席しているのも、婚約がほぼ確定している為だ。
「チッ…めんどくせぇ」
隠そうともしない不満げな様子に、エリューシスは(まだまだ青いわね…)とぬるい目で見つめる。
くりっとした茜色の瞳。少年期特有の柔らかな頬、成長途中の膝小僧。
(ふっ…わたくしがショタコンだったら、相当やばかったですわ)
と、変態じみたことをエリューシスは思った。
お茶を嗜み、お菓子を味わい、30分程したところで、第三王子は心底面倒くさそうにつぶやいた。
「さっさと帰れよ香水くせえ」
ま、ま、ま、まってましたー!!
「そうですわね!面倒くさいですわよね~~!殿下が!でーんーかーがー!帰れとそうおっしゃるなら仕方ないですわよね~!殿下のお言葉ですもの!すごーく後ろ髪をひかれますけれども殿下のお言葉なので仕方ありませんわ帰ります~!」
来た時の100億倍の笑顔で元気に宣言して、退席する。思わず高笑いが出てしまった。
目をひん剥いた第三王子に、(あららお目目がこぼれそうですわよ、可愛いですわね)と心の中でサムズアップしながら、王城の温室から華麗にエスケープしてみせた。
まぁ、普通に大目玉をくらったが。
「これで第一印象は最悪ですわね!」
ふふん、と育たぬ胸を張った。
拙作を読んでいただきありがとうございました。
さらっと読めるものを目指しております。どうぞよろしくお願いします。