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猫の私は異世界に行きましにゃー  作者: 蜂鳥タイト
第1章・第1部 ライブ編
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74話 コッルルスライ・F・スターリ―(スライ視点)


 第一級レース【ヒューリンガースカイ】当日。

私はいつも通りレース会場に入っていく、今回は【神速のスターリ―】と呼ばれていた衣装を着て。

だが、出場選手の皆には見向きもされない。

それはそうだろう、そう呼んでいたのは当時の伝説世代である5人と、エリ、そして地元の皆の人たちだけ。

どちらかと言えば【レースの破壊者】と呼ばれる方が多かった印象がある。


「あっ……レミンさんですわ~」


私はインタビューをしているレミンを後ろから覗き見る。

どうやら、私の事は気づいていないようで……


「レミンさんの今回の作戦はどう行く予定ですか?」

「はい、今回は逃げ作戦の人が少ない様子なので、中盤に控え、後半一気に飛び出す作戦に……」


と不意に私と目が合う。

さすがに昔一緒に飛んだ記憶があるのか、すぐに私だとわかったようで、レミンは目を丸くしている。


「どうかしましたか?」

「いえ、作戦変更します。序盤から前方にいたいと思っています」

「逃げになるということでしょうか?ずいぶんと思い切りましたね」

「はい、そうでもしないと勝てない相手が、今回出場するようですから」

「またまた~!本当にレミンさんは冗談がお得意なのですね!あなたが勝てないなんてないですよ!頑張ってください!」


さすがにそうだろう、今ではレミンは全戦全勝しており、まぎれもなく最強と呼ばれる立場にいるのだ。

消えてしまった私のことなど、今では誰も覚えてはいない。

今回は私もインタビューをすることになっている、昔の私ならばインタビューは大嫌いだったのだが、今は違う……


「では次にコッルルスライさんです!」

「よろしくお願いいたしますわ~」


目の前には新聞記者がちまちまと私の写真を撮っている。

前回のレミンさんに新聞記者が集まっていたため私の存在感は薄い。


(ふふ、良いですわ~、私はこの空気が好きなのですわ~)


「ではスライさん!さっそく質問に移りたいのですが、その前にその衣装は今回の為の特注品ですか?」

「そうですわ~、私この金色と白色の衣装が大好きなのですわ~」

「そうですか!とてもよくお似合いですよ!それでは早速、今回の作戦について教えて頂けますでしょうか?」

「今回の作戦は……逃げで行きますわ~」

「……逃げ?ですか?スライさんは追い込みだったはずでは……?」

「そうですわ~今は追い込みですわ~」

「今はということは昔は逃げだったのですか?」

「とても速かったですわ~」


私は冗談なように少し体をくねらせる。

何故なら、元から信じてもらうのが目的ではないから。


「あはは!スライさんも冗談がお得意ですね!では最後に一言お願いします!」

「皆様ごきげんよう~私、コッルルスライ……いや、コッルルスライ・Fフォン・スターリ―、と申しますわ~、聞いたことある人は良く聞いてくださいですわ~昔の私を見せて差し上げますわ~しっかり見ておいてほしいですわ~」

「おおー!スライさんにしては強気の発言ですね!空族3連王期待しています!」


私は頭を下げるとそのまま歩いて行った。

やっと言えた、私がずっと言いたかったこと、私が思っている本当のことを。


一方その頃ミシュはというと、明日の手術のために羽の点検をしていた。

そのためインタビューは見れていない。


コンコン……


「はーい!」

「こんにちはですわ」

「エリ!どうしたの?」

「今日はミシュさんのレース日ですわ、一緒に見たいので来ましたわ」

「もちろん知ってるけど、エリも一緒に見るの?」

「びっくりすることが起こりますわよ」

「……?」


ミシュは恐る恐るテレビをつけることにした。

インタビューを見ていないミシュにとっては全く分からないだろう。

これはすべてエリの作戦で、点検時間をわざわざずらしてもらってもらったのだ。

まぁ、さすがにレース場に連れていく案は通らなかったため、代わりにこの案が通ったということなのだが……

ミシュとエリはそのままテレビに没頭することになる。



私はゆっくりと廊下を歩いていく……

正直不安でしかない、あんなことを高らかに言っておきながら周りには、私よりも倍くらいの練習をしている種族たちがたくさんいる。

いや……私も頑張っている……そう信じたい。

いよいよ出口が目前に迫る。


(この先には……私が昔のように飛んでいた空が……昔……飛ぶことが好きだったあの頃を……でも……大丈夫なのか分りませんわ~)


今すぐにでもこの場から逃げたい……ここから……でもレースに出たい……レースは好きだから……

そんな思いが私の中に渦巻いている。


(昔の私を思い出すのですわ~)


昔の私はただ皆よりも前を飛ぶことしか考えていなくて、レースで優勝したら家族から褒めてもらえて……

今の私には家族がいない……だとしたら褒めてくれる人は……


「もう最高だった!聞いてよ!スターリーさんの生ライブ聞けたんだよ!こんなこと滅多にないよ!」


私はミシュの前でライブした時の感想を思い出す。

あの時のミシュはとても目が輝いていた。


(何を悩んでいたのでしょうか?私は、私の好きなように飛んだらいいんですわ~さあ、皆さん覚悟しなさいですわ~)


私は思わず笑顔になりながら、まっすぐ歩いていくのだった。

ここから先にある、好きな本当のレースに向かって。

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