72話 スライの空族3連王にゃー
フランが私たちのグループに入り、無事ミシュのお金の件は片付いたのだけど、まだ私たちには最大の課題が残っている。
それは、ミシュをこれからも助けていくということでレースにたくさん出て、頑張っている所をアピールするということ、そうしなければまた前のような不安に駆られてしまう。
ということで今日はフラン指導によるトレーニングが始まる。
「はい、ということで皆は何がしたいの?」
「私は、まだ決まってないにゃ……」
「私は陸上三連王を目指すことですわ!」
「私はそうですね、陸上1級レース【ミセリ―】を10連覇です」
「私は空族3連王になりますわ~」
「スライが目指すにゃ?フランだと思ったにゃ」
確かにスライのレースは見たことがない、正直速いのかもわかっていない。
どうやらその思いは私だけでなく、他の2人も同様で、エリだけはどうやら知っているみたいで。
ちなみに、空族3連王とは鳥族3連王の名前がどうやら今年から改正されたようで、空族3連王に変更し他の種族も取れるようになったらしい。
「まずシャーリンは論外、エリも実力がまだまだ低いのでまず無理です。ロミは実力はあるけどレースの駆け引きがないです。スライが1番可能性が近そうって感じ」
「にゃうー」
「シャーリンはさっさと目標を決めなさい」
相変わらずトレーニングになるとフランの冷たい言葉が投げかけてくる。
正直前までの私にならばいやに感じていただろう、でも今は私の事を思って言ってくれているのが分かる。
「まずはシャーリンはスタミナをつけて自分の走りをしなさい。下手に脚質を変えなくてもいいし。それで勝てるならいいけど勝てないならばさらに無駄。エリはもっと走りのトレーニングを、パワーだけ鍛えてもダメ。ロミは他の人との並走トレーニングをしなさい。スライは、正直言うことないわ」
「にゃにゃ!?そんなにすごいのにゃ!?」
「恐らく羽を見る限り、羽質は変えてると思うけど、実力はかなり上位に来るとは思うから」
羽質とは脚質と同じように、羽を折り曲げたりすることにより、先行や逃げなどの作戦を変える方法で、確かにスライは蝶族のモンシロ類、蝶と言えば4枚の羽があるのだけど、スライには2枚の羽しかない。
そうして、私たちのトレーニングは始まるのだった。
しばらく伊賀達、私たちはスライのレースを見るために、モニターの前に集まっている。
今日は空族3連王の最初のレース【ブラウター】山道の曲がり道のような急カーブがあるレースで、この時ミシュはかなり技術が高くカーブで一気に差を縮め、そこからの加速で一気に抜き去る戦法だった。今回のスライは一体……
『それではカウントダウン……5、4、3、2、1、スタート!』
実況の声とともに一斉に飛び出していく、スライは一番最後に付けている。
これは追い込みという戦法で、最後尾から一気に抜き去る戦法の事を言う、しかし……
「これはかなりのハイペース、相手飛ばし過ぎね」
フランが厳しめの事を呟く、確かに見る限り前のミシュより早く感じる……
しかも、現在1位の鳥族だけはそんなスピードであるにもかかわらず、綺麗に曲がっているのだ。
「1位の人誰ですの!?あの速度で膨らまずに曲がるなんて……」
「よく見なさいエリ、曲がる直前膨らんでいますよ?あの人は確か……精霊族のセイリンではないですか?」
「ロミの言う通り、セイリンはわざと曲がる直前大きく膨らみ、そのまま最小限で曲がってるだけ。そうすると普段より早く曲がることが出来る」
(つまり車と同じ原理にゃね、車もカーブに入る時少し外に膨らんでから曲がると早く曲がれるにゃ)
スライは現在も最後尾に位置している。
もう後ちょっとしかないのだけど、間に合うのだろうか、そんな不安が私の思いにある。
するとスライの速度が一段と上がったことに気が付いた、いや…一段どころの話ではないように感じる、他とは違う……圧倒的に速い。
普段はかなりのんびりのため、レースではここまで速いとは思っていなかった。
『スライがどんどん他を抜き去っていきます!これぞ追い込みの頂点でしょうか!?わずか5秒のうちに全員を抜き去り今1位でゴールイン!最高速度は……なんと時速250KMを超えています!』
「にゃにゃ!?」
「凄いですね……空中族の瞬間最高速度は【神速のスターリー】の時速500KMですが……」
「500にゃ!?」
ロミの言葉に私は目を丸くするしかなかった。
時速500と言えば、新幹線よりも早いということ……
(そりゃあ、神速ともいわれるにゃ……)
スライはその半分しか出ていないのだが、それでもかなり早いということは確かだろう。
実況の人が言うに、250KMを超えている空中族はまだそこまでいないと思う。
そして2連王第二レース【カバウム】がやってくる……
ミシュはこのレースで恐らく羽を痛めた。
『スライがものすごい速度で追い上げてきます!空族2連王になるのでしょうか!【カバウム】が震えています!スライが!圧倒駅な実力を見せつけ今1位でゴールしました!!2連王達成です!!』
スライは【ブラウター】の疲れを全く見せることの無い完璧のレースを見せてくれたのだ。
何よりすごいのは……
「頑張りましたわ~」
「お疲れ様にゃ!」
見る限り……まったく息が切れていない。
あのようなレース……しかも【ブラウター】から期間が短かったにもかかわらず、|全≪・≫|く≪・≫息が切れていない。
フランもずっと黙っているが、何か勘づいているようにスライの事を見ている。
スライには何か隠し事があり、エリはそのすべてを知っている。
私はそのことに既に気が付いていた。
だけどその秘密は分からない。




