62話 ミシュの容態にゃー
あの日……会場がどよめいた。
誰もが勝ったと思っていた……もちろん私も。
でも現実は……甘くはなかった。
『ミシュの羽に異常発生です!』
この実況が今にでも忘れられない……私の真上で一人の鳥族が落ちていったのだから……
「シャーリン……そんな顔していたらミシュに怒られますわよ!」
「そうですよ?まずは羽の状態を調べないといけませんから……まだ怪我だと断定はできません」
「そうですわ~たまたまの捻挫かもしれませんわ~」
「そうだと良いにゃ……」
私たちは病院のフロントに全員で座っている……
一応手術や入院ではお金がかかるのだが、診察だけは無料でしてくれるのだ。
しばらく待ってくると医者が歩いてきた。
「どうだったにゃ?」
私の言葉に医者は息を詰まらせる……
どうやらただの捻挫……というわけにはいかないらしい。
「ミシュさんは……右翼軸断裂骨折です」
「え?それって……」
スライには分かったらしい……
鳥族ではない私たちには何のことかはわからなかった。
「はい、この画像を見てください。詳しく説明します……まず、背中と羽を繋いでいる部分に大きな骨があり……そこを主軸翼と呼んでいます。ミシュさんはここが完全に2つに折れています」
「治りますわよね!!?」
「自然治癒だと……恐らく15年から20年はかかります。姉である、ミシュリーさんは、この羽に伸びている無数の小さな骨の一部骨折だったので……入院して自然治癒完治1年、リハビリ2年で済みましたが……主軸翼骨折は……手術をした場合1年で終わりますが……リハビリで最低でも3年から5年です……」
医者の言葉に私たちは絶句するしかなかった。
つまり手術をしないと、15年から20年飛べないという宣言をされているのだ。
「手術させてあげたいにゃ!」
「それは難しいですわ~鳥族の手術はお金がとてもかかりますのよ」
「そうなんですの?」
「なら私のお金使ってください、こう見えて金持ちですから」
「仮に手術を希望した場合……かかる値段が……大金貨2000枚になります、種々を決めるならば早くした方が良いと思います。とりあえず右羽を固定するため……この白いサポーターを付けます」
(大金貨1枚が10万だから……2億円にゃ!!?)
「ロミどれくらい出せますの?」
「せいぜい大金貨500枚です……」
「つまり私たちで残り……1500枚集めないといけませんわ~」
「私100枚持ってるにゃ!」
「私は50枚です」
「私も50枚ですわ!」
「皆さん少ないですわ~私は300枚持ってますわ~」
私たちは全員総出で思った……
どうしてお菓子を食べているのにそんなに溜まっているのか……と。
「とりあえずこれで1000枚はあるわけだにゃー」
「う……ん……」
「ミシュ!起きましたか!?」
「起きましたわよ!」
「起きましたわ~」
「無事でよかったにゃ!」
私たちは全員でミシュの顔を見る……
どうやら一瞬どこにいるのか分からず戸惑っていたが、羽の違和感に気づいたのか医者の方を見る。
「あ……あの!」
「残念ですが……右翼軸断裂骨折です……」
その言葉にミシュは絶望的な表情を見せる。
もちろんどのような怪我かは分かっているようだ。
「それだと治っても……」
「はい、治れば多少……レースには出ることは出来ますが……今まで通り飛ぶことは不可能になります」
「そんな……なんで……」
「ミシュそんなこと良いにゃ!無事で……」
「無事じゃない!」
「うにゃあ!?」
突然の叫び声に私は飛び上がる。
ミシュの顔は……泣いていた。
それもそのはず……今までずっと、お姉さんの後を追って……スターリ―さんに憧れてきた。
それが後直前で3連王を逃し、さらには重大な怪我を負ってしまったのだ……普通ならば引退案件だろう。
「なんで!私は……才能だけってみんなに言われても……あれだけ頑張ってきたんだ!スターリ―さんに憧れて……レースに出て……姉様を超える目標も立てた!それなのに……」
この病室にミシュの嘆く……悲しい声が響き渡った。
結局この叫びは1時間程も続き……エリが眠ったミシュを抱え一緒に寮に帰ることにした。
(本当にどこの世界でも理不尽にゃ……前世で……私が親友と離れ離れになったのもそうにゃ……ミシュも……お姉さんの怪我を見ていたからこそ……ちゃんと代わりになろうとしたにゃ……なのにまさか……お姉さんよりも重い骨折に……)
私は下を向きながら部屋に入っていく……
となぜかフランが着替えをしている所だった。
「どうしてフランがいるにゃ?」
「どうしてって……ここは私の部屋だし、そもそも何で、勝手にシャーリンが入ってくるの?」
「……ごめんにゃ……」
「話があるから待って」
私は落ち込みながら出ようとした矢先、フランに止められた。
フランの声には……いつもの冷たいような感じはなく、どこか温かみを含んでいるように聞こえた。
ということで私は、ミシュにあったことを全てフランに伝える。
「ふーん……右翼軸遮断骨折ね……まぁ仕方なんじゃない?あの飛び方なら。羽を粗末にした結果ですね」
「フラン……ミシュは怪我人にゃ!そんな言い方はないにゃよ!ミシュを舐めすぎにゃ!」
「シャーリンこそ鳥族を舐めすぎです。いえ……ミシュもですね。鳥族の羽は思っている以上に繊細なんです、どんなに気を付けていても、少しの無茶で怪我をする……それが鳥族の常識です」
「それは……」
「そもそも、ミシュさんの異常には少し前から気づいていたはずです。何故止めなかったのですか?止めなかったあなたたちの責任でもあります」
「それは……」
「お金残り1000枚でしょう?あなた達4人ならば1年あれば足ります」
私は医者に言われてことを思い出す。
そう確か……制限は1か月……それ以上過ぎると手術は出来ないそうだった。
「1年……」
「せいぜいレースへの情熱を失わなければ、時間はかかろうとも復帰は出来ます。メンバーの機嫌を保つのはシャーリン、リーダーのあなたの役割です」
(そうにゃ……私はシャースミミリンのリーダーにゃ!何もできないけど……励ますことは出来るにゃ!)
この時私は、ミシュに元気になってもらえるように、あるものを制作しようと、心に決めるのだった。
 




