49話 魚族たちのパフォーマンスを見るにゃー
昨日、水中レースを見た私は、興奮によりなかなか寝付けず。結局今日、寝不足で水族館に行くことになった。
昨日はかなりの距離を歩いてヘトヘトだったのだが、今回は近くの旅館に宿泊していたため、そこのストレスは全くなかった。
「今日は何を見るのか決まっているのにゃ?」
「シャーリンさんは水中のパフォーマンスを見たことがないでしょ?」
「ないにゃ……でもここの看板にはレースしか書いてないにゃよ?」
「はぁ……少しは自分の頭で考えてください。他の看板を見たらいいでしょ?」
「そうだったにゃ!」
ということで、私たちはパフォーマンス用プログラムの看板に向かう。
ちなみにパフォーマンス部門とは、水中専用の部門であり、巨大なプールの中で様々な事をするらしい……
「イルカ族に精霊族……妖精族に天族……カジキ族……マグロ族……クジラ族……にゃぁ……たくさんいるにゃぁ」
私はフランと相談して、イルカ族と精霊族を見ることにしたのだった。
イルカ族はこのあと11時から、精霊族は昼の2時からだった。
時間的には両方見れるため、両方見ることにした。
「ところで……ここって選手たちと話せるところはないにゃ?」
「ないことはないと思うけど、めんどくさいから早く行くよ」
「ちょっと待ってにゃあ~」
私は慌ててフランの後を追いかける。
水中パフォーマンス部門の会場は、前のレース会場とは違い大きな四角いプールが真ん中にある。
前世のテレビで見たような、人間がしている競技に似ているような気がしている。
しかし、この競技は対決とかではなく、いわば前世の歌手と同じ立ち位置になるようだった。
『それでは始まりました!パフォーマンス部門!イルカ族による素敵なパフォーマンスをどうぞご堪能下さいませ!』
どんどん中からイルカ族が現れてくる。
どうやら全員で6人らしい……
そして1人が前に歩いてくる、何やらマイクを握っているので、何か発表をするらしい。
「皆さん!今回は私たちのパフォーマンスを見に来ていただき、どうもありがとうございます!」
「「「ありがとうございます!」」」
「今日は、スラチオ学園からお客さんが来ているということで、楽曲は……陸上の皆さんが良く歌っているこの曲です!聞いてください【ShiningCourage】」
私は目を丸くする。
この曲はシュレーヌさんたちが作ったといわれる曲で、陸上内では最も有名な曲なのだが、空中レースや海中レースではそこまで有名ではない。
つまり……私たちがここにいるとわかっていてこの曲を選んでくれたのだ。
しかも即興……練習も何もしていないはずなのだが……
そんなことを考えていると、音楽がかかり、イルカ族たちが次々にプールへと飛び込んでいく。
「どうなるにゃ~」
私は興奮により尻尾をぶんぶん振っている。
プールではイルカ族が真ん中でダンスをしており、今日初めてこの曲を踊ると思うのだが完璧、まるで毎日練習しているような、そんな6人の連携ダンスが私の目には映っていた。
そうして6人はプールの中に潜ると、音楽に合わせて一緒に水中ジャンプをする。
まるで全員が糸で繋がれているかのような連携で、高さも、タイミングもすべて完ぺきだった。
「凄いにゃああ!!」
「さすがは【フィッシング・スカーレット】の皆さん。初見ではないとしても……ここまで完璧にしてきますか」
と今度は3人と3人で分かれるようだ……
そうして6人はお互いの所に突っ込んでいく……あの速度で激突すれば怪我では済まない……
「危ないにゃ!!」
6人はそのままジャンプをして……左3人は下、右3人は上を飛び越えていく、前世の人たちでは、1人で絶対にできない芸当だった。
そして2人がまた真ん中でダンスを始め、その周りには4人それぞれ飛び回っていた。
適当に飛んでいるようにもみえるが飛ぶタイミングは4人全員完壁で、ずれることも一切なく、イルカ族は、この完璧なクオリティを維持したままステージは幕を閉じた。
「凄かったにゃ!イルカ族!!飛ぶタイミングも……高さも!そしてぶつからない様に上下で交差するのもしびれたにゃよ!!」
「そう、ですがこの後見る精霊族もなかなか凄いと思いますよ、シャーリンさんが、うるさくなりそうで怖いけど」
「大丈夫にゃ!」
ということで私たちはいったん休憩を挟み、今度は精霊族のステージに向かうのだった。
精霊族のステージは、また違っており……円形のプールが5個無造作に並んでいた。
正直何をするのか全く分からない……
『皆様長らくお待たせをいたしました!これから精霊族によるステージを開催いたします!!精霊族たちによる水アートどうなるのでしょうか!』
(水アートにゃ??水の上に絵でもかくのかにゃ?)
そんなことを考えていると、ぞろぞろ精霊族が横から歩いてくる……羽が付いているため間違いなく精霊族たちだろう……それにしても可愛い……
「皆さん!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
と何やらしっとりとした音楽が流れる。どうやらバラード系……だろうか。
精霊族たちはプールの周りをそれぞれダンスをしながら回っている。
今のところ何も起きる気配がないのだが……微かに水面が揺れた気がした。
次の瞬間。5個のプールの水がすべて空中に浮かんだのだ。
私はもはや何が起こっているのか分からなかった。その水たちはそれぞれ音楽に合わせて……橋の形などに変化していく。
何がすごいかって、すべて5人で1つの作品になっている。つまり橋で例えるならば……1人が柱、1人が道路……という風に……プールの水で表現している。
叫ぶなんてもってのほか……凄すぎて言葉にできなかった。
精霊族は手を伸ばしつつも、ちゃんとダンスをしている……
(おそらくイメージしながら動かしているはずにゃ……それなのにダンスも出来ている……一体……思考回路どうなっているにゃ!?)
そうしているとフィナーレなのか……後ろから1回り大きなプールが現れる……その時ほかの水はすべて何やら走っている銅像?の形で落ち着く。
「何をする気にゃ……?」
「見ていれば分かりますよ」
私の問にフランが答える。
正直私の思考回路では限界で、ただ見守るしかなかった。
精霊族たちは片手を上に……そのまま5人はもう片方の手で大きな水槽に手を伸ばす……無論足のステップは踏んだまま……
(まさにゃ!?5人全員であのプールの水を!?息があっていなきゃ絶対無理にゃよ!?)
大きなプールの水がゆっくりと持ち上がっていく……そしてどんどん形を変え精霊族が見えなくなってしまう。
そう……プールの水がステージ全体を埋め尽くしたのだ。
そうして水はさらに形を変えていく……この形は確かに見たことあった……そうなんと……陸上のレース会場を水で表しているのだ。
つまりあの走っているような銅像は……
そう、そのトラックと思われる部分に、それぞれ走っている銅像が水の上に置かれ……
陸上レース場でレースをしている姿が浮かび上がったのだ。
この光景に周りから大歓声が沸く……精霊族は水の下にいるため、この様子は見えていない……のにもかかわらず巨大な水アートを完成させたのだ。
その後、私たちは精霊族に拍手をし手を振ると、ゆっくり来た道を帰っていく。
今日で旅行は終わり、あと1泊旅館に泊まって明日寮に帰る予定なのだ。
「すごすぎきたにゃあああ!」
「シャーリンさんおかしな言葉になってますよ」
「あんなの見たことないにゃ!まさか水で陸上レースを再現するにゃんて!」
「精霊族は魔力が大きいですから、とはいえ魔法は法律として原則、レースやライブでは使用禁止ですけど、こういう時の浮遊魔法なら、使ってもいいってなってますよ」
だがそれでも相当訓練は積んでいるだろう……
私たちはとりあえず、寮近くの旅館に泊まった後、ゆっくり休むことにする。
今日の出来事は必ず、私にとってはいい出来事になるだろう。そう思うのだった。




