41話 2回目の鳥1級レース【ブラウター】(ミシュ視点)②
『5秒前!5!4!3!2!1!スタート!!』
開始の合図とともに私たちは一斉に飛び出して行く……が私は後方位置を取ることにした。
(絶対勝つ!才能じゃないってこと……見せつける!)
(ふん!やって見なさいよ!どうやら出遅れたようね……才能に頼りすぎじゃない!)
(出遅れた??そんなまさか……ミシュさんは今まで出遅れたことなんてなかったはず……)
「出遅れたにゃ!!?」
「何しているのです!?ミシュさん!」
「最後尾からのスタート……これは厳しいですね」
「……なるほどそういうことですか~」
「どうしたのですか?」
「ミシュさんは……わざと出遅れましたわ~」
私は前方を確認しながら飛んでいくと1個目のリングが見えてくる……
(このリングを超えると次は右に急カーブ……でもペースが速い……このままだと……)
(ちょっと!?カレン……飛ばし過ぎじゃない!?)
(しまった……ちょっと早すぎた……)
全員がリングを超えるとそのまま曲がっていく……があまりにペースが速すぎるためにかなり大きく外に外れてしまった。
『おっとー!これは少し飛ばし過ぎか!全員かなり外に出てしまいました!ここからリングまで戻ることが出来るのでしょうか!!』
(はぁ……はぁ……羽はまだ動く……それに風が気持ちいい……仕掛けるのは25KMの折り返し……やってやる!見せつけるんだ!私の全力を!)
私はその後、3つのリングを超え、行きでの最後のリングが近づいてくる……いまだ最後尾に位置していた。
(すう……ここでリング上すれすれまで上昇……)
私は1人だけ上に上がっていく……周りからはどよめきが起こっているのが分かった。
「何をしていますの!!?あれだと下から……抜かし放題ですわ!!」
「ミシュさんにはある異名が付いていますわ~それは……」
(ふん!ミシュさん何をしていますの、あれだと抜かされますわね、ここで限界、ならばあと見るのはカレンさんだけです!)
(リンが近づいてきてる……けど残り半分……逃げ切ります!)
(すう……リングを超えた……そして奥には折り返し……よし……やります!!)
私は90°体を傾けるとそのまま羽を1回動かす……ものすごい重力に引っ張られるも急角度で曲がっていく……
(ミシュさんは最後尾……それにこのペース……抜かせられるわけ……!!?)
リンが見たのは内側を飛んでいるミシュの姿だった。
(嘘でしょ!!?何で……このペースでそんな内側をそんなペースで回れるのよ!!?)
(しまった……油断しましたよ!)
『なんと!!?折り返し地点でミシュさんが先頭に立ちました!ものすごい急コーナー最後尾から一気に全員を抜き去りました!!』
「にゃにゃ!!?にゃんにゃあれは!?」
「どうなっているんですか!?」
「あり得ませんわ!あんな速度であのコーナー出来るはずありません!スライさんまさか……」
「そうですわ~あれがミシュさんにしかできない技……体を90度回転させて羽を1回動かすことにより生まれる反動で、速度を落とさずに無理やり曲がったのですわ~……簡単に言いますわ~私たち鳥族は飛ぶとき、下に羽で空気を押し出して上に上がりますわ~つまり……下から上に上がるのを利用して……曲がりたい方向に飛んでいるんですわ~あれはミシュリーさんにもできませんわ~理由は2つの羽を同時に動かさないと……1回転してしまいますから~その時についたミシュさんの異名が……【曲神】そう地方では呼ばれるくらいの、あり得ない急カーブを実現させたのですわ~」
「ものすごく難しいにゃ……」
「まぁ~ミシュさんしかできませんわ~」
(このまま……1位取ってやる!!)
私はさらに加速していく……と次のリングが見えてくる……ここからは先ほど通ったリングを逆に通っていくのだが……もう遠慮はいらなかった……ここからは私の急カーブを見せつけて認めさせる……そう思っていた。
(何で!何で追いつけないのよ!!というか曲がるときに離されてる!!なんなのよ!!こんなの……才能だけでできるようなものじゃないじゃないの!!)
(く……3連覇がかかっているんです!負けるわけにはいきません!!)
(絶対勝つんだ!私は……お姉様とスターリさんを超える!!)
私はさらに羽を動かし最後のリングを超えた……ここから最終直線に入りゴールのリングを超えるだけだ……
(羽から風を切っている音が聞こえる……風が私の顔に当たっている……まだまだ羽は動く……ここからラスト!!追いつけるものなら)
「追いついてみなさいよ!!」
私はさらに羽を動かして加速していく……先ほどよりも早く……先ほどよりも強く……風を切っている。
(まだです!!負けません!!)
と後ろからカレンが飛んでくる……カレンは最後のスパートが桁違いに速い……どんどん私に近づいてくる……
「にゃにゃ!追いつかれるにゃ!」
「頑張ってください!」
「負けたらだめですわよ!!」
「ファイトですわ~」
(羽が重い……皆の応援が聞こえる……そうだよ……私は1人じゃない……ここで負けるくらいなら……羽を壊してまでも……前に進むだけ!!)
「はああああ!!」
私は精一杯に羽を動かしさらに突き放していく……正直羽を動かせば動かす程、空気抵抗を受け重くなるのだが、ミシュはそんなこと気にしてはいなかった。ただ1位でリングをくぐる……その一心で羽を動かす。
「うそでしょ!!?」
「負けるかぁぁぁ!!」
『ミシュがさらに加速しました!カレンを突き放しどんどんゴールのリングに近づいていきます!!ミシュリーの思いを受け継ぐのか!ミシュ!3連王の駆け出しに今……ミシュが立ちました!!ミシュ!1位でリングを抜けました!!』
「やったにゃああ!!」
「やりましたわね!」
「おめでとうございます!」
「よくやりましたわ~おめでとうです~」
私はリングをくぐった後もしばらく飛び続けていた……気持ちの整理が追いついていないのだ。
間違いなく1位でくぐった……そう……才能しかない、と言われ続けていた私が……
「勝った……お姉様……私勝てました……1級レースで……」
(なんだろう……視界がぼやけるなぁ……)
「1位、おめでとうございます、ミシュさん……良いレースでしたよ」
カレンが私のところまで飛んできて手を差し伸べてくる……
「うん……うん!ありがとうね!カレンさん!」
「全く!勝った本人が泣くなんて、私たちに対する嫌味かしら?」
奥からリンも近づいていた……のだが目には涙を浮かべていた……やはり1位を取りたかったのだろう。
「本当よ!勝った本人は堂々としてなさいよ!!」
と私に一言言った後飛び立っていき……しばらく飛ぶとまたすぐに止まった……
私は何をしているのかと近づいていくと肩を震わせてぐずる声が聞こえ……
「1位……おめでとう……」
私は思わず背中から抱き着いた……
リンはビクッと体を震わせるも、抵抗する気は無いようだった
「ありがとう、私……あなたたちとレースが出来て……とても楽しかったよ」
「わたしだって……楽しかったわよ……でも……勝ちたかった……もう少しだったのに……うわあああ!!」
リンは私の方を向くとひたすら肩で泣き続けるのだった。
周りからは大きな拍手に包まれ……中には泣いている人もいるのだった。
(これがお姉様が見た勝利の世界……見ててお姉様!私は絶対にお姉様を超えますから!!)
私は2人と一緒に、表彰祭に向けて飛んでいくのだった。




