1話 異世界に迷い込んだにゃー
ガン!
「痛いにゃ!」
何やら頭に大きな痛みを感じ目を開ける。
「なんにゃ……」
私は目を開けると目の前に家の壁があった。
「にゃんで!?私真ん中で……って話せてるにゃ!?」
何かがおかしいと思い、自分の手を見る。
「人間の手にゃ……足もにゃ……」
私は不思議な気持ちと共に立ち上がると、そのまま鏡の前に行く。
「にゃんですかぁぁぁぁ!?」
そうそこに写っていたのは、可愛い(自称)少女の人間の姿だった。身長は恐らく150センチほどだろうか……
髪は灰色のショートヘアで、服装も灰色のTシャツとズボンを履いている。
「これが私……可愛いにゃぁ~」
私は頬に両手を付け、うっとりしている。
「でも耳と尻尾はあるにゃ」
そう猫耳と尻尾はちゃんとついており、意識したらちゃんと動くようになっている。
「人間の耳は基本聞こえないにゃ……」
私は人間耳を叩くも音は聞こえない……
聞こえてくるのは、すべて猫耳の方からだ。
「ということは耳はちゃんと猫耳なんにゃ!話せるって嬉しいにゃ!ところで……何が起こったんにゃ?」
私は訳が分からず家の外に出た。
周りには、気が生い茂っており、何やら森の中の小屋に迷い込んでしまったらしい。
「うーん……?こんな森だったかにゃ?」
私は歩いて行くうちに変な気分になる。
「誰か来るにゃ!」
私は奥から走ってくる集団を見る。
どうやら、声が聞こえてくるので、人間なのは間違いない。
「1!2!3!」
と何やら掛け声をしているようなのだが。
ここから見たら、何をしているのかは全く分からない。
だが、足音的には走ってきているようだった
「人たち……にゃ??」
走ってきた人たちは、全員、頭に耳と尻尾が付いているのが見える。
ここで確信した、ここは私がいた世界とは違う世界だという事を。
「人間じゃないにゃ……」
と私は全員が走っていった方を見る。
しかし、ここからは何も見えない。
「あの人たちが来たところ戻れば何かわかるかにゃ~」
私はそのまま、全員が走っていったのとは逆方向に歩き出す。
ついていくよりも、引き返した方が、何かがあると考えたのだ。
理由は、もしも私の考えが正しければ、今あの人たちはランニング中の可能性が高い。
前世でも、部活というものをちらっと確認したことがあるのだが、その時も数字を叫んでいた気がするのだ。
「全然何もないにゃ……」
私は地面に座る。本当に周りには森しかなく、もう足が動かなかった。
「何してるの?」
「うにゃ!?飛んできたにゃ!」
私は思わず叫ぶ。
行きなり上から声をかけれられたのだ、驚くなというのが無理な話だろう。
「そりゃ私鳥族ですから飛びますよ、ほら羽がありますし」
と羽をはばたかせる。
羽に関しては背中に大きく2つ付いているように見えるが、実際は小さな羽が無数に付いているようだ……
「凄いにゃ初めて見たにゃ……」
私は目を輝かせて、目の前の鳥族を見る。
身長は私よりも小さくて、とてもかわいい。
「今までどこにいたの……?」
どうやらこの世界に色んな動物がおり、全ての動物が人間の姿をしているのは常識らしく……
「鳥さん……この世界は……人間のいる世界と違うにゃ?」
私は鳥族の人に聞く。
鳥族の人は一瞬頭を抱えると、ゆっくり私の方を向いて答える。
「鳥さんって……私の名前はミシュ!よろしくね!あなたの名前は?」
「私はリンリ……」
思わず止めてしまう。
その理由は、もしもこの世界が前世の世界と違うのならば、名前を変えた方が良いと思ったからだ。
「どうしたの?もしかして名前忘れた?」
「そうじゃないにゃ……シャ……」
「シャ?」
「シャーリンにゃ!シャー!!」
私は威嚇のポーズをする。
猫は威嚇や怒った時基本的にシャー!と鳴くため、私のリンリンとシャーを組みあわせたのだ。
「凄く可愛い名前だと思う!」
ミシュが笑っているのでどうやら、成功したようで……
どうやら名前を変えたのもバレてはいないみたいなので、成功と言っていいだろう。
「それでここら辺に街かなんかあるにゃ?」
私はもうここが地球ではなく、別世界であるということを確信していた。
ご主人様ともう会えないのは分かっていたのだが……ここで泣いてしまうと、私は止まらない気がしたので、頑張って耐える。
そう……ここで生きていくことを、確信したときからすでに決心していたのだ。
「この先にあるよー!お金ある?」
私ははっと思いつく。
元々猫なのでお金などあるはずもない。
「なかったらレースで稼ぐと良いよ!あれ結構お金はいるからね!」
「レース?なんにゃ?」
ミシュが驚いた顔をする。
どうやらこの世界では、レースというものは常識のようで……
でも異世界から来ました!なんて言えるはずもない……
「まさかレースを知らないの?」
私は軽く頷く。
初めての異世界なので私が知る由もなかった。
「とりあえず街に行こうか、話はそこからだね」
「了解にゃ!」
私とミシュは道を歩いて行った。
正直、私の目の前で飛んでいる人を見るのは、何か変な気分がする。
こんなこと、現実ではありえないからだ。
「そういえばミシュはレースというのに出ているのにゃ?」
私はミシュの方を見る。
私にレースを勧めるということは、ミシュも出ているとは思う。
念のため、確認することにした。
「うん!私には目標があるからね……まぁ……私で言う目標は鳥1級レースで1位になること」
「鳥1級レース?」
「うん!鳥族特有のレースなんだけどね10級からあって……その中で勝ち続けた鳥族の人たちが厳選して集まり勝負するの。ちなみに他のレースでも10級から1級まであるよ~ちなみにレースと言うのは、みんなで競い合う競技の事ね!空中1級レースともいわれているよ!」
私は大きく頷く。
前世の記憶だと確かに、人間でも、マラソンというものがあった……それの空中版だろうと推測する。
「一応種目は無数にあるよ!」
「にゃるほど……」
「あっ……そうそう報酬はトロフィーと新しい競技を考えて自作する権利も手に入れられるよ!まぁ……新しい競技に関しては、私も噂でしか聞いたことないけどね……」
「なかなか楽しそうにゃ……でもみんなはそのためにレースに出るにゃ?」
私の質問にミシュはしばらく考える。
どうやらただ単純にレースに出るとはまた違うらしい?
何を考えているのか……と私は首を傾げるとミシュがゆっくりと口を開く。
「私は……私のお姉様が元一級優勝者だったんだけど一応一級って何個もあってね、快挙の5蓮勝を目指していたんだけど4連勝したときに怪我をしちゃって……そのまま病院にね。だから私が代わりに5連勝、もしくは3連王と言う称号を手に入れる。これが私の目標であり夢なんだよね、あとは実際にレース会場に行く方がいいかもね!街に着いたら行こうか!暗い話になっちゃってごめんね!」
私はその言葉を聞いて絶句した。まさかここまでレースに本気を出していると私の[楽しいから]というのがダメな気がしたからだ。
「私は……そこまで本気になれないにゃ……だから諦めるにゃ」
ミシュは残念そうに下を向いた。
どうやら、私と一緒にレースに出たかったらしい。
けど……この気持ちで参加しても、周りから変な目で見られるのは分かっている。
それなのにレースに出るのはさすがに失礼ではないだろうか……と考えてしまうのだ。
「そっかぁ……」
「だからごめんにゃぁ……」
私たちはその後、私がいた世界の事、この世界の事について、楽しかったことなどを教え合い、街に向かって歩いていくのだった。
結局、ミシュには前世の事を離してもいいと思ったので、話をすることに決め、ミシュはうんうん頷きながら、しっかりと最後まで話を聞いてくれた。