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大人になる魔法
リンちゃんは公園の屋根付きベンチに着くと、ポシェットを開ける。
傘を閉じ、近くに立てかける。
滴る水滴で、乾いたコンクリートが、じっとりと濡れていく。
「この間魔法をかけておいたんだ。リボンを結んだら大人になれるようにって」
リンちゃんはポシェットの中からリボンを取り出す。
「大人になった自分の姿を見たら、元気ややる気も湧いてくるよね」
リンちゃんは周囲を気にして、いそいそと髪にリボンを結ぶ。
(どんなだろう……大人になった私って)
手鏡に映る自分の姿をわくわくしながら見つめる。
ニコッと笑ってみた。
頬をプクッと膨らませてみる。
(おかしいな……また失敗かな)
鏡に映った自分は中学生のままだった。
リンちゃんは大きく息をして、リボンを解き手鏡と一緒にポシェットに入れる。
(魔法使ったらバタンキューだったから……帰ったら、もう一回やってみよっと)
傘を差して公園から出ようすると、朝霧を見かけた。買い物帰りだろうか。