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過去到来
気がつくと、リンちゃんは一階の階段前にいた。
父と母がこちらに向かって歩いてくる。
「あ、お父さん。お母さん」
父と母は、リンちゃんを通り過ぎる。
言葉も体も通過した。
「待ってよ、お父さん、お母さん」
リンちゃんは母の腕に手を伸ばす。
その手は空を切る。
手も、肩も、腕も、頭も、胴も、母も父もリンちゃんのすべてがすり抜けた。
「じゃあ行ってくるよ」
「お兄ちゃん!」
リンちゃんは叫ぶ。
「りっか……リンちゃんによろしく。たまには帰ってくると言っておいて」
「気をつけてね」
(お兄ちゃんが大学に行くところ?……私、中途半端に過去に来ちゃった?)
りンちゃんが兄を見ていると、ボーンという音が聞こえ、暗闇が訪れる。