09 ドロップありました
第2層。勢いで来てしまったのでマッピング記入用のボードの在庫がない。慎重に一回だけ威力偵察して帰宅するつもりだ。
見た目は1層と変化はない。目の前には二股に薄暗い通路が伸びている。
変わったのは、音と匂いだ。これは何の匂いだろうか。獣か?
多分、他のパーティーもこの階層で活動している。薄らと聞こえてくる戦闘音に緊張感が高まっていく。
……できれば戦闘なしで、他のパーティーが敵と戦っているところをこっそり覗き見だけしたい。
メインウェポンだった鍬は取り回しが悪いので持ってきていない。持っているのは安いステンレスの万能包丁だけだ。
「見通しが良すぎるな」
天然の洞窟のような遮蔽物が少なく、曲がりくねってもいない。こっそり覗き見は厳しそうだ。
覗き見は諦めて、音のしない方向に進むことにした。
「ギャギャッ!」
通路の奥から聞こえてきた警戒を思わせる甲高い鳴き声に、既にこちらの存在が捕捉されていることを知る。あちらさんの方が索敵能力は上のようだ。
暗がりから出てきたのはサビが浮いた短刀を持った小鬼だ。ゴブリンってやつか。
こちらが1人なのを見てか、ニヤニヤと笑みを浮かべ3メートルほどまで歩き寄ってくると、低い姿勢から短刀を突き出し一気に飛び込んできた。
しかし、なんということもない動きだ。刃物を持っているというだけで一層の蜘蛛と速度も狙いもそう変わりがない。
右足を引き、左足を軸に後ろさばきでゴブリンの側面へ。
通り過ぎたゴブリンは勢い余って床へダイブし、短刀も床を転がっていった。
とりあえず脇腹に蹴りを入れ、悶絶している隙に包丁を取り出し、返り血を浴びないように背中を踏み固定して心臓を刺した。
殺人事件現場ってこんな感じだよなと他人事のように思い耽っていると砂のように崩れて消えていった。
『魂強度上昇。職業、シーフを解放しました』
「……包丁は料理人じゃないのか」
包丁は短剣扱いでシーフ解放ということなんだろうきっと。武器種で職業が決まるっていうのもゲームシステム的にどうなんだろうか。なんとなく腑に落ちない。
取り残されていた包丁を回収していると、闇に紛れるようにポツンと真っ黒な石も落ちていた。ゴブリンが持っていた短刀は同じく消えたようだ。
これが魔石か。魔石だよね? 魔石じゃなくても換金性のあるドロップだよね?
きっとなんかの燃料とか材料とかになるから換金できるやつなんだよね? RPGだよね?
初めて生き物を殺害した感慨なんてものも吹き飛び、初めてのドロップに喜びを隠せなかった。
よし! 帰って回復職っぽい武器をネットで探して買っちゃおう!