08 ぼったくりました
昨日はハバネロソースガンを握っていた右手でいつの間にか目を擦ったのか酷い目にあった。目が辛い。手も洗ったはずなのにハバネロソース恐るべし。軍手じゃ扱いにくいからと素手で握っていたのがまずかったか。
今日は朝から前回とは逆の左手法で2層への階段を探索している。
もはや蜘蛛は蹴りと踏み潰しだけでいけるので、持ち歩くなら邪魔くさい鍬より身を守る盾とかの方がいいかもしれない。
1層は特に足元への攻撃がメインなので脛と脹脛を守る脛当てというのか足甲の様なものも欲しい。ネットなら売ってるだろうか。ないよりはましと段ボールとガムテープで作った使い捨て脚絆が蒸れている。
『魂強度上昇。職業、武闘家を解放しました』
踏み潰した数を数えるのも面倒になったところで5度目のレベルアップだ。頑張ればまだ一層でも上がるのかな?
戦闘職が解放された。解放条件はレベルアップまでにどう敵と戦ってきたかだろうか。でもこれだと解放されただけで職業に就いてるのかどうかもわからない。ステータスぅ!
とりあえず目的の回復魔法職の解放条件も知りたい。
気分良く敵を蹴り散らしながら進むこと小1時間。下層への階段を発見した。自宅からは徒歩5分くらいの位置。マッピングマッピング。
階段を覗き込んでいると人の気配がした。複数人の女性の声だ。
俺はマスクとパーカーを装着してランタン露店セットを広げて座り込む。ボッタクリ商店オープンだ。
ランタンの電源を入れていると階段を上がってきた女性パーティが視界に入った。5人全員女性だ。手を上げて戦闘の意思がないことをアピール。
訝しげな視線が刺さる。まぁ黒パーカーでフード被った黒マスクが迷宮で露店してたら怪しいのは否定しようがない。
マッチョ、マッチョ、マッチョ、杖スリム!、マッチョ。魔法使い風なのがいる! 刃物が鞘に入っていることを確認したのでポケットのハバネロソースガンからは手を離した。
「サグラダグラマン?」
先頭のマッチョ女さんがランタンを指差しておそるおそる聞いてくる。前にも聞いたなサグラダグラマン。ランタンのことなのか魔道具的なもののことかな。
「……マジで」
「マジデ?」
返答はせず、指を2本立ててお値段だけを告げる。そして前回と同じようにランタンを持ち上げ、トントンと電源スイッチを指差してオフに。
「ハァッ!」
気合いと共にスイッチをオンにすると再びランタンに灯が点る。
「「オオォー!!」」
マッチョ女性達の野太い雄叫びが上がった。
「マジで」
冷酷に値段だけを告げる。静寂が場を支配していた。
前回と違ったのは全員銀貨を出したことだ。思い切りがいい。銀貨18枚で並べていたランタン9個全部が買い占められてしまった。
銀貨の価値は思ったより低いんだろうか。
「毎度ー」
ランタンを手に姦しい彼女らを尻目に、ビニールシートを手早く撤収して何食わぬ顔で彼女達とは逆の2層へと向かう。
売れる。
下手に実用品を街に持ち込んで注目されるのは相手方の法制度や慣習がわからないのでまだ控えたいところだが、影響の少なそうな酒の席のネタ小物を怪しさ満点の迷宮露店でも十分売れる。
完全武装の人達相手なのがリスク上の難点ではあるが、迷宮帰りの真面目な活動家の人達はわりかしセーフティな気がする。
こちらでの銀貨の価値は分からないが百円玉1つとは釣り合わない……はずだ。