06 暴利を貪りました
次の日、俺は露店を広げていた。
迷宮内は治外法権。そんな言葉を思い出したからだ。思い付いたとも言う。
一層の入り口階段を下りたところに1畳ほどのカラフルなビニールシート敷き、百円ショップで購入した小さいランタン型LEDを10個並べて、値札代わりに銀貨2枚の絵を描いた。
感染予防と人相を隠すためにマスクとパーカーのフード着用だ。右手はポケットでデスソースガンを待機中だ。握っているだけで若干痒い。
煌々と灯る使い捨てのランタン達。売れようが売れまいが即閉店即逃亡する気満々の迷宮ボッタクリ商店はフラッシュオープンした。
時間は昼過ぎ。
百円ショップで時間をかけ過ぎてしまった。
左手で菓子パンを齧りながら待っていると奥から話し声が聞こえてきた。少なくとも3人。やはりというか理解できない言葉だ。
……多い。
ゴツい軽鎧の男達が7名。刃物は鞘に収まっているが筋肉の圧力が凄い。
ランタン達の前で足が止まる。
指差してはしゃぎ始める男たち。しかし1番後ろの身なりの良い男は剣呑な眼差しで俺を眺めていた。
額を伝う汗。
「サグラダグラマン?」
お調子者っぽいマッチョが話しかけてきた。俺はゆっくりと頷く。
ランタンを1つ持ち上げ、電源スイッチを指差す。連中の目は釘付けだ。
スイッチをオフにし、もう一度スイッチを指差す。連中はどよめいている。
「ハァッ!」
気合いと共にスイッチをオンにすると再びランタンに灯が点る。
「「オオォー!!」」
連中の喜びの雄叫びも上がった。悪い連中じゃなさそうだ。
トントンとランタンを指差し、次にボードにチョークで丸を書いただけの銀貨の絵を指差しVサイン。
「銀貨2枚ヤスイヨー」
棒読み日本語だかどうせ伝わらないので気分だ。
「ナクステ? マンデ?」
丸の絵が通じてなさそうだ。お調子者はよくわからないと言いたげに首を捻っている。
俺もゆっくりと首を捻り左手を上げ、よくわからなんのジェスチャーだ。
「ンンーフ?」
「ナクステ?」
ナクステとは何か聞いてみた。
「ンンーナクステ?」
お調子者は懐をゴソゴソ探し、硬貨を何枚か手のひらに取り出して金貨を指差した。
「じゃーマンデかな」
俺は首を振り、銀貨っぽい硬貨を指差し、すかさずVサインした。
「マジデ?」
「マジで」
お調子者の手のひらから銀貨を2枚受け取り、ランタンを渡した。
「毎度ありー」
「マンドアリー!」
お調子者はランタンのスイッチをカチカチしながら満面の笑顔で去っていった。よし! 平和的手段で現地通貨ゲット!
他の迷ってそうな男どもを尻目に、そそくさとビニールシートをランタンごとたたむ。
「毎度ー」
引き際が肝心なのだ。商品や金を奪われたり、色々突っ込まれたりする前に即逃亡だ。
もう全力で走れば蜘蛛に追いつかれないのも確認済みなので前にいる敵だけ蹴り飛ばし、自宅に逃げ帰ることに成功した。