05 街に行ってみました
ホームセンターで仕入れたチョークとクリップボードを3セット、外の気温が分からないので一応上着の黒のパーカー、水2リットル、携帯食料としてチョコ詰め合わせをリュックに詰め、上層への階段を探し始めた。
身体能力は上がったとはいえ、先制攻撃を食らうと怪我必至のため、足音を忍ばせながらかなり慎重に進んでいる。
こちらが先に蜘蛛を発見した場合はもう特に問題はない。真っ直ぐ噛みに来るだけなので、足でひっくり返して耕せば終わりだ。この階層では敵は単体のみのようだ。
右手法に従い、ゆっくりと探索する。ついでに安全が確認できたら、首から下げたクリップボードに分かれ道をマッピングしていく。
行き止まりも多く無駄足も多いが焦らず進んだ。蜘蛛を5匹倒したくらいで敵の気配に大分慣れてきた気がする。
自然にできた洞窟のような勾配はほぼない。不自然に平面的だ。目が慣れれば戦闘に支障がない程度の薄暗さは壁も天井も床もほんのり発光しているからだ。寒くも暑くもない、とても都合良く人に優しい、まさにご都合ダンジョンだ。
3時間の行ったり来たりで上に向かう階段を発見した。マッピングマッピング。真っ直ぐ来れば自宅トイレから徒歩10分ってところだろう。中々の良物件。
「……問題はここからだ」
今のところ、まだ人と遭遇していない。迷宮を出入りする冒険者的な人にすら遭遇していないのだ。色んな国から迷宮を目指す人のための迷宮街なら外部の人にも緩い法制度だろうが、選ばれた人のみが迷宮に入る形の迷宮街だと不法侵入者扱いされる可能性がある。そして、未だ人を見かけないのだ。後者の可能性が高い。
全面が発光しているため影なんてないが、気配と身を潜め一段一段慎重に上がっていく。
外は暗かった。
地面にぽっかりと開いた迷宮から出ると石造りの建物だった。誰もいない。窓からは月明かりが差しているが迷宮より暗い。
ポケットにあった圏外スマホで時間を確認すると、23時だった。
「早寝か」
唯一の出口と思われる鉄扉も外から閂をかけられているようだ。照明や燭台もないことから日が沈んだら営業終了な雰囲気だ。
明り取り用の窓から外の様子を見てみるも暗い。月明かりのシルエットだけではよくわからない。時差の存在も失念していたが、とりあえず完全に寝静まっている。
窓から出て、スマホのライトで動き回ることもできなくはないだろうが目印もスマホマップもない状態では遭難しそうだ。
ここで朝まで待つか?
……いやいや帰るでしょ。明日また出直そう。