12 異世界のトイレ発見しました
街灯なんてものもないので鐘楼の建物へは誰とも会わずに闇に紛れて余裕で来れた。ただ、営業終了時間のようだ。格子状の鉄扉が不審者を拒絶するかのようにがっちりと閉まっている。
女神像みたいのに祈って職業選べたりスキル取得できたりしたいだけなのに。勝手な想像だけど。でもこの感じの建物は間違いなく宗教施設で絶対に何かある。
「いっちゃう?」
いかん。ナチュラルに不法侵入しちゃう思考はよろしくない。バレたら犯罪だがバレなければ犯罪じゃないのだ。いや、違う。
朝までどこかに隠れて、教会に参拝にやってきた無口で変な格好の人を装う手もなきにしもあらずなのだ。非合法手段に慣れ過ぎるのもよろしくない。
まずは情報収集だ。
「あった!」
教会(仮)周辺を歩き回っていた俺は、嗅ぎ慣れた駅のトイレ臭を辿り、公衆便所を発見した。どうやら1箇所に集めるシステムのようだ。すごいスメル。
公衆便所といっても日本の公衆便所とは天地の違いがあるし、ここを使うくらいならコンビニに行くんだけれども!
下水道は偉大だ。
悪臭の近くには粗末なバラックが連なっていた。貧民街というやつだろう。隠れるには適している気はするのだが……。
「こういう所の方が縄張り意識高めなんだよな……」
取りまとめている主に挨拶しないとダメだってどっかの極道マンガで見た。し尿収集をシノギにしてて意外と仲間意識強いんだよきっと。
臭いし、もうちょっとましなところを探そう。
潜入調査が続く。
もうこのまま朝までウロウロしていてもいいのかもしれない。文化も違う、見知らぬ街を探索するのも楽しくなってきていた。
繁華街らしき方向にも向かってみる。
獣臭いランプが吊るされた屋台には、粗末な長テーブルに乱雑に酒や料理がのっている。むさ苦しい男達と露出高めでしな垂れるように酌をする女達。これはあれですな。一晩おいくら?なやつですな。
しばらく物陰から眺めていると喧嘩が始まった。
レベルアップしているからか随分と激しい喧嘩だ。
目がそちらに集まっているのでもう少し屋台の近くに寄ってみる。そこにはもう見慣れてしまったLEDランタンが置いてあったからだ。
お客さん第一号のお調子マッチョがいた。
夜のおねーちゃんの肩を抱き、LEDランタンをプレゼントしていた。おねーちゃんは喜んでいる。
こりゃ売れるなぁ。でも電池切れると面倒やな。
そのまま何食わぬ顔で通り過ぎ、再び闇に潜った。